ずぐずしてるのきらい。だから、そうする気ならさっさときめるといいのよ。」
「あたしのほうからいい出せるものではないし、おとうさんはあのかたに、あたしのことわかすぎるとおっしゃったんですもの、あのかたもいい出せないわ。」
 ジョウは、メグが気がよわいから
「あの人にいい出されたら、なんていっていいかわからなくなり、泣き出すか顔をあかくするか、ノウがいえないで、あの人の思うようになってしまう。」と、いいますと、メグは
「あなたの思うほど、あたしばかでもよわ虫でもないわ。あたしにだって、いうことはいえるわ。」とやりかえしました。
 それから、恋愛についていろいろ話したあげく、メグは、もしいい出されたら、
「あたしすっかりおちついていうわ。ありがとうございます。ブルックさま、けれど、まだ年がわかすぎますので、今のところ婚約などできませんの。父もおなじ意見でおりますの。どうかなにもおっしゃらずに、今までどおりお友だちとしておつき合い下さいませ。」
「ほう、いえるかしら。あのかたの感情を害することを気にして、きっと敗けてしまうわ。」
「いいえ敗けるものですか、つんとすまして部屋を出ていくわ。」
 そのとき、だれか扉をたたきました。開けると、それはジョンでした。
「こんにちは、こうもりがさをとりに来ました。あのう、おとうさんの御容態、今日はどうかと思いまして。」
 ジョンは、メグとジョウの、意味ありげな顔を見て、ややあわてながらいいました。
「たいそう元気でいますわ。かさたてにいますからつれて来ます。それから、あなたのお見えになったことも知らせて来ます。」と、ジョウは、かさと、おとうさんを、ごっちゃにした答えをしながら、メグに例の口上をいわせ、つんとすまして部屋を出ていかせるために、じぶんは部屋を出ました。メグは、ジョウのすがたが見えなくなると、すぐに、
「おかあさんが、お目にかかりたたがっていますわ。どうぞおかけになって、すぐよんで来ますから。」
 ジョンは、メグにむかって、
「お逃げにならなくてもいいでしょう。ぼくがこわいんですか?」と、ひどく、感情を害したような顔つきでしたので、メグはびっくりして、
「父にあんなに親切にして下すったのに、どうしてこわがりましょう。どうしてお礼を申しあげたらいいかと思っていますのよ。」
「どうしてお礼をしていただくか、いってあげましょうか?」と、ジョンは、メグの手を握りしめ、愛情をこめて見るので、メグは
「いいえ、いいえ、どうぞおっしゃらないで。」と、やはりこわそうに手をひっこめようとしました。
「ごめいわくはかけません。すこしでもぼくに好意を持って下さるかどうか知りたいだけです。ぼくは心からあなたを愛しています。」
 さあ、今こそおちついて、例の文句をいうべきでしたが、すべて忘れ、うなだれて、わかりませんわと答えただけで、それもあまりにひくかったので、ジョンは聞きとるために身をかがめなければなりませんでした。そして、ジョンは、すこしぐらいめいわくをかけてもいいと思ったらしく、満足そうに、
「ぼく、いつか報いられるかどうか、うかがいたいのです。そうでないと仕事もできません。」と、いいました。
「でも、わたしまだわかすぎますから。」
「ぼくは待っています。そのうちに、ぼくを好きになるようになって下さい。ぼくは教えてあげたいのです。これはドイツ語よりやさしいのです。」
 ジョンは、懇願するようでしたが、一面、なんとなく、たのしそうで、成功をうたがわぬというような満足そうなほほえみさえうかべていました。メグは、アンニイ・マフォットのことを思いうかべ処女の優越感から気まぐれな気持にかられ、
「わたし、そんな気持になれませんわ。どうぞお帰り下さい。」と、いってしまいました。それを聞いたジョンは、メグのそのふきげんにおどろき、
「本気でそうおっしゃるのですか?」と、部屋から立ち去ろうとするメグを追って、心配そうに尋ねました。
「ええ、あたし、そんなことで気をもみたくありませんわ。父も気にかけないようにといいました。早すぎますし、そんな気になれませんわ。」
「あなたのお気持がかわって来てほしいものです。ぼくは待っています。ぼくをからかわないで下さい。」
「あたしのことなんか考えないで下さい。そのほうが、あたし、けっこうなのです。」
 メグは、恋人の忍耐とじぶんの力を試そうとする気味のわるい満足を味わいながらいいました。ジョンは、青い顔になり、いかにもなやましそうでした。この興味ふかい場面に、マーチおばさんが、びっこをひきながらはいって来なかったら、そのつぎにはどんなことが起ったでしょう?
 マーチおばさんは、ローリイからマーチ氏が帰宅したことを聞くと、すぐさま甥にあいに馬車をのりつけました。びっくりさせるために案内も
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