、歌を合唱しあって、ごちそうを食べ、心ゆくばかりたのしいときをすごしました。
食事をおわってから、家族は炉のまわりに集りました。娘たちは、今年の思い出話をしましたが、じっと耳をかたむけていたおとうさんは、満足そうにいいました。
「小さい巡礼さんたちの旅としては、今年のあと半分はくるしい旅だったね。だけど、みんな勇ましく歩いて来たし、めいめいの重荷も、うまいぐあいにころげおちそうだね。」
「どうしておわかりですか? おかあさんからお聞きになりました?」と、ジョウが尋ねました。
「まだ、そんなに聞いてはいないが、わらの動きかたで風向きがわかるね。それで、おとうさんは、今日いろいろなものを発見した。まず、これが一つ。」と、おとうさんは、そばにすわっているメグの手をとって、「あれた手だね。やけどもある、まめもある。だが、むかし美しかったときよりも、今のほうが美しいね。この手は家庭を幸福にしていく、勤勉な手だ。」
おとうさんは、にっこり笑って、むかいがわにすわっているジョウをながめて、
「髪をきったが、一年前の息子のジョウではなくなった。身じまいもきちんとして、すっかり女の子になった。今は看病と心配のつかれで青い顔をしているが、ずっとおだやかな顔つきになった。むかしのおてんば娘がいなくなって、すこしさびしいが、そのかわり頼もしい心のやさしい娘があらわれた。」
「こんどはベスね。」と、エミイはじぶんの番の来るのを待ちどおしく思いました。
「ベスは、病気でこんなに小さくなったから、うっかりしゃべっているあいだに、どこかへ消えてしまいそうだね、まあ、前ほどはにかまなくなったようだが。」と、おとうさんは、もうすこしでこの子を失うところだと思い、しっかりとだきしめ、「ベス、どうかいつまでもじょうぶでいてほしいね。」
みんなだまって、それぞれなにか考えていました。と、おとうさんは、足もとのエミイの髪をなでながら、
「エミイは、食事のとき、いつもとちがって、鳥の足の肉をとったし、またお昼からはお使いをしたし、しんぼうづよく、みんなのお給仕もしたね、おしゃれもしなくなったし、指にはめているきれいな指輪のことも口に出さなかったね。これでおとうさんには、エミイがじぶんのことより、他人のことをよけい考えるようになったことがわかってうれしい。」
おとうさんの話がすむと、ジョウがベスにむかって尋ねました。
「ベス、あなたなにを考えているの?」
「あたし、今日、天路暦程のなかで、クリスチャンとホープフルが、いろいろくるしい旅をつづけたあげく、年中ゆりの花のさいていてたのしい緑の野辺について、ちょうど今のあたしたちのように、目的地にむかって、また出発する前に、そこでたのしく一休みするところを読みました。」と、ベスはいって、おとうさんのそばをはなれてピアノの前にいきました。
「お歌の時間でしょう。おとうさんのお好きな、巡礼の聞いた羊飼いの少年の歌、あたし作曲しましたの。」
そういって、ベスはピアノをひき、二度ともう聞けないかと思った美しい声で、ベスにふさわしい古風な讃美歌をうたいました。
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へりくだるものにおそれなく
ひくきにあるものにほこりなし
まずしきものは、とこしえに
神のみちびきえらるべし
われもつものにことたれり
たとえおおくもすくなくも
ああ、そのたるをしるこころ
主のこころにかなうべし
おもにはかたにおもくとも、
じゅんれいのたびをつづけつつ
このよのさちはうすくとも
主のしゅくふくをうけるならん。
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第二十三 マーチおばさん
はたらき蜂が、女王蜂のまわりにむらがるように、おかあさんと娘たちは、そのあくる日、ベスのそばの大きなイスに身体をうずめたおとうさんのまわりにたかり、あらゆる親切なお世話をしました。ただ一人、ふしぎなかわりかたはメグで、そわそわしたり、気がぬけたようになったりしました。
午後、ローリイが、窓ぎわのメグを見て、雪のなかに片ひざをつき、胸をうって髪をかきむしり、哀願するように、りょう手を組み合せて、拝むようなかっこうをしました。メグが、ばかなまねはおよしなさいというと、ハンカチで空涙をふいていってしまいました。
「おばかさん、なんのつもりかしら?」と、メグがいうと、ジョウが
「あなたのジョンが、こうなるという実演なのよ。あわれでしょう。」と、せせら笑っていました。
メグは、顔をしかめ、わたしをこまらせないで、今までどおりみんなで遊んでいればいいといいますと、ジョウは、
「そうはいかないわ、おかあさんにもあたしにも、よくわかるけど、おねえさんはちっともおねえさんらしくなくなったわ。遠いところへいっておしまいになったみたい。あたしおねえさんみたいに、ぐ
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