えたので、もうジョウも、さっぱりと、じぶんの感情を流し、二人を祝福する気持になりました。むろん、エミイもベスも、心からよろこび、エミイは二人をスケッチしようと思いたちました。この古ぼけた部屋にこの一家の、最初のロマンスが、まばゆいばかりかがやき出し、たいしたごちそうはありませんでしたが、それはそれはたのしい食事でありました。
 おかあさんがいいました。
「今年は悲しみをおいかけるように、よろこびがやって来る年らしいですが、その変化がはじまったようです。でも、すべてうまくいきそうで、けっこうです。」
「来年は、もっといい年になればいいと思います。」と、ジョウにはメグをうばわれたことは、いい年とは思えませんでした。
「ぼくは、さ来年が、もっといい年になってほしいと思います。ぼくの計画が進んでいけば、きっとそうなります。」と、ジョンがメグにほほえみかけながら、そういうと、結婚の日が早く来ればいいと待ち遠しく思っているエミイが尋ねました。
「待ち遠しくありません?」
「勉強することがありますから、みじかいくらいですわ。」と、メグが答えました。
「あなたは、ただ待っていて下さればいいんです。はたらくのはぼくがやります。」と、いって、かれは仕事の手はじめとして、メグのナプキンをひろってやりました。
 それを見てジョウは、気にくわなかったのですが、そのとき、玄関の扉がばたんと開いたので、
「ローリイだわ、これでやっと気のきいた話ができそうだわ。」と考えましたが、ローリイが来たときすっかりあてがはずれたことがわかりました。というのは、この事件のすべてがじぶんの考えで成立したというような、あやまった考えを起して、ジョン・ブルック夫人のために、結婚式用の大きな花束をかかえて来たからです。
「ぼくは、ブルック先生が、じぶんの考えどおりになさることがわかっていました。いつだって、そうなんです。やりとげようと決心なさると、空がおちて来ようと、やりとげておしまいになります。」とローリイは、花束とお祝いの言葉とをささげながらいいました。
「おほめにあずかって恐れいります。ぼくはそれを未来のよい前ぶれとしてお受けいたします。そして、ぼくたちの結婚式には、あなたを招待することをきめましょう。」
「地球の果てからでもまいります。そのときのジョウの顔を見るだけでも、大旅行して来るねうちがあります。きみは、うれしそうな顔をしていませんね。どうしたの?」と、客間のすみのほうへいくジョウの後についていきました。みんなは、ローレンス氏を迎えるために、そこへ集っていきました。
「あたし、この結婚に不賛成だけど、がまんすることにしたら、一言も反対はいわない。だけど、メグをやってしまうの、どんなにつらいか、あなたにはわからないわ。」と、いったジョウの声はかすかにふるえていました。
「やってしまうんじゃない。半分だけのこることになる。」
「ううん、もとのとおりにはならない、あたしは一ばん大切な友だちをなくしたのよ。」
「だけど、ぼくがいる。たいしてやくにたたないけど、一生きみの味方をする!」
「それや、わかってるわ。ありがたいと思うわ。ローリイ、あなた、いつだって、あたしをなぐさめてくれたわね。」と、ジョウは感謝をこめてローリイの手をにぎりました。
「さあ、いい子だから、うかぬ顔をするのおよし。メグさんは幸福になるし、ブルック先生は就職なさるし、おじいさまはよくめんどうを見てあげる、メグがいっちまったら、ぼくも大学を卒業するしそしたら、いっしょに外国を漫遊するか、どこかへすてきな旅行をしよう。なぐさめになるよ。」
「そりゃ、いいなぐさめねえ、でも、三年のあいだに、どうなるかわからないわ。」
「そりゃそうだが、きみは未来をのぞいて、ぼくたちがどうなるか見たかない?」
「あたし、見たくないわ、なにか悲しいことが見えるかもしれないもの。今はみんな幸福だけど、これ以上、幸福になれると思わないわ。」
 ジョウは、そういって部屋を見まわしましたが、かがやくばかりにたのしそうなありさまに、ジョウの目もかがやきました。
 おとうさんとおかあさんは、二十年前にはじめられたじぶんたちのロマンスの第一章を、心しずかによみがえらしてすわっていました。エミイは、二人の恋人がみんなからはなれて、じぶんたちだけの美しい世界にすわっているすがたを写生していました。ベスは、ソファに横になって、ローレンス老人とたのしそうに語っていました。老人は、ベスの手をにぎりしめ、その小さい手がじぶんを、彼女の歩いて来た平和な道にみちびいてくれるような気がしていました。
 ジョウは、彼女らしい、きりっとしたしずかな表情で、ひくいイスによりかかり、ローリイはそのイスのせにもたれ、あごを彼女のちぢれ毛の頭とならべ、二人をうつしている
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