ンナは、大きな安心のなかで、抱いたり、手を握り合ったり、よろこびのなかで、ゆめのような時間をすごしました。
冬の夜は、ようやく明けはじめました。メグは、咲きかけた白ばらの花を持って来て、
「あの子が目をさましたら、このかわいいばらと、おかあさんの顔が、一ばんはじめに見えるようにしてあげよう。」と、いいました。
メグとジョウは、長い、悲しい一夜を明かし、おもいまぶたに、あかつきの空をながめたとき、こんなに美しい朝を見たことがないと思いました。メグが、
「まるで、おとぎの国みたいねえ。」と、いってほほえむと、ジョウがとびあがって、
「あら、お聞きなさい!」と、いいました。
そうです。ベルが鳴り、ハンナとローリイのうれしそうな声、
「おかあさんのお帰りですよ!」
第十九 エミイの遺言状
家でこういうことが起っているあいだ、エミイは、マーチおばさんの家で、まことにつらい日を送っていました。エミイは、まるで島流しにあったようなわが身をふかく悲しみ、わが家でどんなにかわいがられていたかということを、生れてはじめて感じました。
マーチおばさんは、親切でしたが、けっして人をあまやかすようなことをしませんでした。エミイはしつけがいいので、たいそう気にいりました。それで、エミイをかわいがり、幸福にしてやりたいと思いましたが、ざんねんながら、その方法がまちがっていました。
マーチおばさんは、すべて命令ずくめで、きちょうめんで、くどい長いお説教で、エミイを教育しようとしましたが、これがまたエミイをすっかり不幸にし、まるでじぶんはくものあみにかかったはえのようだと思いました。
エミイは、まい朝、茶わんをあらい、スプーンや湯わかしを、ぴかぴかに光るまでみがかなくてはなりませんでした。それから、おそうじ、おばさんはちり一つ見のがさないので、なんとまあおそうじはつらかったでしょう。それから、おおむのポーリーに餌をやり、ちんの毛をくしけずり、足のわるいおばさんの用事を、なん度も召使のところへいいにいったり、階段をのぼったりくだったり、それがやっとすむと、勉強をさせられます。その後の一時間! そのとき運動か遊びを許されるので、どんなにたのしかったでしょう!
ローリイは、まい日訪ねて来て、エミイの外出を許してもらうように口説きたて、やっと許されると、二人は散歩したり馬車にのったりして、たのしい時をすごしました。お昼の御飯を食べてから、おばさんに本を読んで聞かせます。おばさんがねむってしまっても、じっとしてすわっていなければなりませんでした。おばさんは、はじめの一ページでいねむりをやりだし、たいてい一時間はねむりました。それから、夕方まで、つぎはぎ[#「つぎはぎ」は底本では「つぎはば」]仕事などをしなければなりませんでした。夕飯までしばらくのあいだ遊びますが、夕飯をすましてからは、マーチおばさんのわかいときの話やお説教を聞かされたいくつしてしまいます。そして、やっと話がおわると、エミイはねるのですが、つらい身の上を思いきり泣こうと思っても、一二滴の涙しかこぼさないうちに、いつもねむってしまいます。
もしローリイと、エスターばあやがいなかったら、こんなおそろしいまい日を、がまんできないとエミイは思いました。おおむのポーリー[#「ポーリー」は底本では「ローリー」]だけでも、エミイを発狂させるほどでした。ポーリー[#「ポーリー」は底本では「ローリー」]はエミイの髪をひっぱったり、そうじしたばかりのかごに、ミルクをひっくりかえしてこまらしたりしました。また、ふとったむく犬も、エミイの手にかかることばかりやりました。
エスターばあやだけは、エミイをほんとにかわいがってくれました。ばあやはフランス人で、マーチおばさんと長年暮らし、おばさんもこのエスターをいなければならぬ人と思っていました。ばあやは、エミイにフランスにいたころのめずらしいお話を聞かせてたのしませました。また、広い家のなかを勝手に歩きまわらせて、大きな戸だなや、古風なたんすにしまいこんだものを、自由に見させてくれました。なかでも宝石箱には、真珠の首かざりやダイヤの指輪、そのほか、ピンやロケットなどいくつも、目もまばゆいばかりのものがありました。
「もしおばさんが遺言なさる場合、あなたはどれがほしいと思いますか?」と、そばについていて、かぎをおろすエスターが尋ねました。
「あたし、ダイヤモンドが一ばん好き。だけど、ダイヤモンドの首かざりはないから、この首かざり」と、エミイは答えて、金と黒たんのじゅ玉でできて、さきに十字架のついた首かざりに見とれました。
「あたしも、これが一ばん好きですが、首かざりにはもったいない。あたしのような旧教の信者はおじゅずに使います。」
「あなた、
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