したらブルック先生から、すぐ帰るという返電さ。だから、おかあさんは、今晩お帰りになる。そうすれや、万事好都合だろう。ぼくのやったこと気にいらない?」
 ジョウは、狂喜してさけびました。
「おおローリイ! おかあさん! うれしい!」
 ジョウは、ローリイにしがみつき、めんくらわせてしまいました。けれど、ローリイは、おちついて、ジョウのせなかをさすり、気がおちつくのを見て、二三度はずかしそうにキッスをしました。それで、ジョウはきゅうにわれにかえり、やさしくかれをおしのけ、息をはずませながらいいました。
「だめよ、あたしそんなつもりじゃなかったのよ。いけなかったわ。でもハンナがあんなに反対したのに、電報うって下すったと思うと、うれしくて、とびつかずにいられなかったの。きっとぶどう酒のせいだわ。」
 ローリイは、笑いながらネクタイをなおしました。
「かまわないさ。ぼくもおじいさんも、とても心配でね。もしもベスに万一のことでもあれば、申しわけない、だけどハンナは、ぼくが電報をうつというと、どなりつけたんだ。それでぼくかえって決心して、うってしまったんだ。終列車は、午前二時につくからぼく迎えにいく。」
「ローリイ、あなた天使だわ。どんなにおれいいっていいかわからないわ。」
「じゃ、もう一度とびつきたまえ。」と、ローリイがいたずらそうな顔をしていいました。
「いいえ、もうたくさん、おじいさんがいらしたら、とびついてあげるわ。さ、あなたはお迎えにいって下さるのだから、早く帰ってお休み下さい。」
 ジョウは、そのまま台所へかけこみ、そこにいたねこにまで、うれしいお知らせ[#「お知らせ」は底本では「わ知らせ」]をいって聞かせました。ハンナは、
「おせっかいな小僧さんだが、かんべんしてあげましょ。おくさまが早くお帰りになるから。」と、いいました。
 新らしい空気がさっと流れこんで来たようなよろこびでした。あらゆるものが希望にみちて来ました。姉妹たちは、顔を合せるごとに、おかあさんが帰っていらっしゃるのよと、はげまし合うようにささやきました。ベスだけは、見るも痛ましく、おもくるしい昏睡状態におちていましたが、それでも姉妹たちは神さまとおかあさんを信頼していますので、今までほど心は苦しくありませんでした。
 吹雪の一日が暮れて、とうとう夜が来ました。バンクス先生が来て、よくなるか、わるくなるか、いずれにしても、ま夜中ごろ変化が起るだろうから、そのころまた来るといって帰っていきました。
 ハンナはつかれきって、ソファに横になってねてしまいました。ローレンス氏は客間をあちこち歩きまわっていました。ローリイはストーブの前に横わって、じっと火を見つめていました。姉妹たちは、すこしもねむくなくて、一生忘れることのなさそうな、ひきしまった気持でベスのそばにいました。
「もし神さまがベスをお助け下すったら、あたしもう二度と不平をいわないわ。」
 メグが熱心にささやくと、ジョウも
「あたしは、一生、神さまにお仕えする。」と、答えました。
 やがて、十二時が鳴りました。二人はベスのやつれた顔に、なにか変化が起ったような気がしたので、われ知らず病人の顔を見まもりました。家のなかは死のように静まり、むせび泣くような風の音だけが聞えました。一時間がすぎましたが、ローリイが停車場へ迎えに出かけたほか、なにごとも起りませんでした[#「でした」は底本では「てした」]。さらに一時間すぎました。吹雪のために汽車がおくれたのでしょうか、それとも、おとうさんに大きな悲しみでも起ったのではないかしら。あわれな姉妹たちは、また心をなやましはじめました。
 二時まで、ジョウは窓のそばへいって、外を見ていましたが、ふとふりかえると、メグがひざまずいて[#「ひざまずいて」は底本では「ひざまいて」]います。あ、ベスが死んだがメグはこわくてあたしにいえないのだと考えると、さっとつめたい恐怖が全身に通りすぎました。ジョウは、すぐにベスのそばにいきました。苦しそうなようすは消えていかにも安らかな顔です。ジョウは泣く気にも、悲しむ気にもなれず、かわいいベスの上に身をかがめて、そのしめった額に唇をあてました。
「さようなら、ベス、さようなら!」
 その気配でハンナが目をさまし、いそいでベッドのそばへ来て、手にさわったり、唇に耳をあてて息をしらべたりしていましたが、
「ありがたい、熱がさがりました。すやすやねていなさる。肌もしめっているし、息もらくになられた。」と、いいました。
 姉妹がこのうれしい変化を信じかねているうちに、バンクス先生が来て保証してくれました。危険は通りすぎた。よくねむらしてあげなさいという、言葉を聞いたとき、お医者の顔は神さまの顔のように思われました。
 お医者が帰ってから、メグとジョウとハ
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