ながら階段をおりて来ると、ベスの泣き声が聞えました。いってみると、鳥かごのなかでカナリヤが死んでいました。
「みんな、あたしのせいよ。えさも水もちっともないわ。」と、ベスはこわばって、つめたくなったカナリヤを手の上にのせて、かいほうしましたが、もうだめでした。
「お墓へいれてやるわ。もうあたし小鳥なんかかわない。」
ベスは、すっかり気を落していました。
「おとむらいは、お昼からにして、みんなでおまいりしましょう。さ、もう泣かないで、箱のなかへねかせておやり。」と、ジョウはいって、台所へはいりましたが、台所は手のつけられないほど混乱しストーヴは火が消えていました。ジョウは火を起し、お湯がわくまでに市場に買い出しにいくことにしました。えびとアスパラガスと、いちごを二箱買って来ると、火は起きていました。ジョウはまず台所を片づけましたが、ハンナがパンをやくように鍋にしかけたままにしてあったのを、メグがこねなおして、ストーブにのせたまま、客までサリー・[#「・」は底本では欠落]ガーデナアのお相手をしていました。
ジョウ[#「ジョウ」は底本では「メグ」]は、そこへとびこんでいって、
「ね、パンがお鍋のなかでころがるようになったら、ふくらんだのじゃない?」
サリイは笑い出しましたが、メグはただうなずいただけでした。ジョウは、すぐにひきかえし、すっぱいパンをそのまま、かまにいれました。
そのとき、おかあさんは、どんなぐあいにやっているか、あちこちのぞきまわり、あわれなカナリヤを箱にいれて、着せてやる服をぬっているベスに、なぐさめの言葉をかけると、外へ出かけてしまいました。娘たちは、なんだかもの足りない気がしました。
そこへ、クロッカーがやって来ました。この人は、やせて黄色い顔をしたオールドミスで、いろいろとあたりをながめまわし、お昼の食事をごちそうになりたいといいました。娘たちは、この人がきらいでしたが、年よりで貧乏で友だちもないから、親切にしてあげるようにいわれていました。その人は、いろいろなことを尋ねたり、やたらに批評したり、知人のうわさ話をしたりしました。
その朝のジョウの苦しい骨折は、たいへんなものでありました。ジョウの骨折は、すべて失敗におわり、アスパラガスは、一時間もにてまだかたく、パンは黒くこげ、サラダのかけじるは食べられるしろものでは[#「しろものでは」は底本では「しろものでほ」]なく、えびには手こずり、じゃがいもはなまにえ、白ジェリイはぶつぶつだらけでした。
「まあ、いいわ。ビーフとパンにバタをつけて食べてもらえばいいわ。だけど、朝のうちまるで、むだになったのがくやしい。」
ジョウは、いつもより三十分おくれて食事のベルを鳴らしましたが、いつもりっぱな料理を食べつけているローリイと、失敗をほじくり出すような好奇の眼と、それをしゃべり散らす舌をもつクロッカーの前にならんだ料理をながめて、ジョウは顔がほてり、すっかりしょげてつっ立っていました。
ああ、料理はちょっと味をみただけで、のこされていきます。エミイはくつくつ笑い、メグはこまった顔をし、オールド・ミス・クロッカーは口をつぼめるし、ローリイは景気づけようとして大いにしゃべりました。ジョウの最後の頼みはいちごでした。ガラスの皿に赤いいちごをもり、おいしそうなクリームがかかっています。だが、それを食べた[#「食べた」は底本では「食べた・」]クロッカーは、しかめ面して[#「して」は底本では「しで」]あわてて水を飲みました。ローリイは口をゆがめながらも男らしく食べてしまいました。エミイは、むせかえり、ナプキンで口をおさえて、あたふたと食卓からはなれていきました。ジョウはふるえながら、
「まあ、どうしたの?」と、さけびました。
「お砂糖のかわりに塩をいれたんだわ。クリームすっぱいわ。」と、メグが答えました。
ジョウは、うめき声をたてて、イスにたおれかかりました。ところが、がまんをしようとしても、おかしくてたまらないというような、ローリイの顔につきあたると、ジョウはきゅうにこの事件がいかにもこっけいに思われ、涙のこぼれるほど笑い出しました。すると、ぶつくさ屋のクロッカーもいっしょに、みんな笑い出し、不幸な宴会は、ともかく陽気におわりました。
「あたし、もう片づける元気ないわ。だから、おとむらいをして、すこしおちつきましょう。」
ジョウは、みんなが食卓をはなれたときにいいました。クロッカーは帰っていきました。きっとこの料理のことを、しゃべりたかったからでしょう。みんなはベスのために、やっとおちつきました。ローリイは、木立のなかの、しだの下にお墓をほり、カナリヤはやさしいベスの手で、涙とともにうめられ、こけでおおわれ、すみれとはこべの花輪が、墓石の上にかざられました。墓石
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