というような、いいかたでした。
「どうして!」
「あたしが焼いちゃったから。」
「なに? あんなに苦労して、おとうさんがお帰りになるまでに書きあげるつもりの、あの大切な原稿を、ほんとに焼いたの?」
 ジョウは、まっさおになり、目は血ばしり、ふるえる手でエミイにとびかかりました。
「ええ、焼いたわ。昨夜、いじわるしたからよ。おぼえていらっしゃいといったでしょう。」
 ジョウは、悲しみと怒りに、かっとなって、
「ばか、ばか! 二度と書けないのよ。あたし一生あなたを許さない。」
 メグもベスも、どうしようもありませんでした。ジョウは、エミイの横っつらをひっぱたいて、部屋をとび出し、屋根部屋のソファに身を伏せて泣きました。
 おかあさんは、帰宅してその話を聞き、エミイをしかりました。エミイはわるいことをしたと思いました。けれど、ジョウの原稿は、五六篇のかわいいお伽話でしたが、文学的才分と全精力を数年間かたむけて書いたもので、ジョウにとっては、とり返しのつかぬ損失でしたから、ジョウは、お茶のベルが鳴ったとき、いかにもこわい顔をして出て来ました。エミイは、ありったけの勇気をふるい起して、
「ジョウ、ごめんなさいね、あたし、ほんとうにわるかったわ。」と、あやまりました。
 ジョウは、ひややかに、
「許してあげるものか。」と、答え、エミイにとりあいませんでした。
 だれも、この大事件のことを口にしませんでした。ジョウがじぶんの怒りをやわらげるまで、なにをいってもしようがないからです。そんなわけで、その晩はたのしくなく、みんなだまって針仕事をしました。おかあさんが、おもしろい物語を話しても、なにかもの足りなくて、家庭の平和は、すっかりみだされていました。[#「いました。」は底本では「いました。いました」]おもくるしい気分は、メグとおかあさんがうたっても晴れませんでした。
 おかあさんは、ジョウにおやすみなさいのキッスをしたとき、やさしい声で、
「ねえ、怒りを明日まで持ち越さないように、今夜中にきげんをなおしましょうね。おたがいに、ゆるし合い助け合いましょう。明日からは、またたのしくね。」と、ささやきました。
 ジョウは、おかあさんの胸に、顔をうずめました。悲しみと怒りを、涙で流したかった。けれど、あまりにいたでは深く、とうとう頭をふり、エミイに聞えよがしに、
「あんまりひどいんですも
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