の手をにぎり、お礼の言葉がいえないので、ただきつくにぎりしめました。老人は、そっとベスの髪に口をあてて、
「わしには、こういう娘があった。ああ、かわいい子じゃ、さよなら、おくさん。」
老人が大いそぎで帰っていくと、ベスはおかあさんといっしょによろこび、そのうれしいニュースを仲よしの人形たちに告げに二階へかけあがっていきました。その晩、ベスは今までにない、たのしさでうたいました。あくる日、老人とローリイが出かけたのを見とどけたベスは、こっそりと、客間へしのびこみ、ふるえるゆびでピアノをひきました。おお、その美しい音、ベスはうっとりとなり、よろこびはてしなく、やすまずにひきつづけ、ハンナが食事のむかえに来るまで手をやめませんでした。その後、ベスはまい日のように生垣をくぐり、客間にしのびこんでひきました。ベスは、老人がそのしらべを聞くために、じぶんの部屋の扉を開けることも、新らしい音譜をそなえておいてくれることも、ローリイが広間にいて女中たちの来るのをおっぱらってくれることも知りませんでした。ただ、ベスは、じぶんの望みのかなったことを感謝して、まことにたのしかったのであります。
二三週間たちました。ある日、ベスはおかあさんにいいました。
「おかあさん、あたしローレンスのおじいさんに、スリッパを一つ、つくってあげたいの。あたしお礼をしたいんだけど、ほかにどうしていいかわからないんです。」
おかあさんは、にっこり笑って、
「ええ、ええ。つくっておあげなさい。きっとおよろこびになるでしょう。みんなも手伝ってくれるでしょうし、かかるお金は、おかあさんが出してあげますよ。」と、いいましたが、おかあさんは、ベスがめったにおねだりをすることがないので、今、ベスの望みをかなえてやるのを、とくべつうれしく思いました。
ベスは、メグやジョウと相談して、型をえらび、材料をととのえて、スリッパをつくりはじめました。紫紺の布地に、しなやかな三色すみれの花をおいたのが、たいそうかわいいと、みんながいいました。ベスは、手が器用でしたし、ほとんど朝から晩までかかりきりでしたから、まもなくできあがりました。それから、ベスはごくみじかい手紙を書き、ローリイに頼んで、ある朝、老人がまだ起きないうちに、こっそり書斎のテーブルの上に、スリッパといっしょに、のせておいてもらいました。
ベスは、心待ちに、待
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