きなライオンでしたが、訪ねて来て、娘の一人一人に、おどけ言葉や親切な言葉をかけ、おかあさんとむかし話をしてからは、もうだれも老人をこわがりませんでした。もう一つのライオンは、こちらが貧乏で、むこうが金持ということで、それもそのうちに、ローリイが、貧乏でも、愛のこもった家から受けるなぐさめを、どんなにありがたがって[#「ありがたがって」は底本では「なりがたがって」]いるかがわかったので、じぶんたちがローレンスの家から受けるものを、べつに恐縮しないでもいいと思うようになりました。そして、そこに春の草のめばえのように、あたらしい友情がもえました。
 ローリイは、今までおかあさんの味も、姉妹の味も知らなかったので、マーチ家にみなぎるゆたかな、あたたかなものに心をひかれ、ひまさえあると、遊びに来ました。それを心配してブルック先生は老人へくわしく告げました。
「いや、かまわん。遊ばせておくさ[#「おくさ」は底本では「おくき」]。あとでとりかえせばいい。マーチ夫人の意見のとおり、あまり勉強させすぎたのがいけなかったのだ。マーチ夫人がよくやってくれる」
 老人は、もうわかっていました。そして、みんなはどんなにおもしろく遊んだでしょう! お芝居、[#「、」は底本では欠落]そり遊び、氷すべり、にぎやかな夜会、たのしい談話。マーチ家からも三人の姉妹がおしかけ、メグは温室で花たばをつくり、ジョウは文庫で本をむさぼり読み、エミイは絵をうつしました。ただ、ベスだけは、グランド・ピアノ[#「グランド・ピアノ」は底本では「グランド、ピアノ」]にあこがれながら、老人をこわがって、逃げて帰りました。老人は、そのことを知って、わざわざ訪ねて来ておかあさんにいいました。
「ローリイは、ピアノを怠けています。やりすぎたから、いいあんばいなのですが、ピアノは使わんといかん。どなたか[#「どなたか」は底本では「どなかた」]来て使ってもらえんかな、いつはいって来てもいいし、口をきかんでもいい。だまって来て、だまってひけばいいんだが。」
 聞いていたベスは、もうたまらなくなって、
「あたしベスです。音楽が好きです。おじゃまでなければ、まいりたいのですが」
「どうぞ。どうぞ。半日だれもいないんだから、えんりょなく、ピアノを使ってもらえれば、こちらからお礼をいわねばならん。」
 ああ、ベスは顔をほてらし、ローレンスさん
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