ちましたが、その日も、つぎの日の朝も、なんの返事もありません。きっと老人をおこらせたのだと、ベスは心配しはじめました。けれど、その日の午後、ベスがちょっとお使いに出た帰りに、思いがけないことが起りました。ベスが家のちかくまで来たとき、四つの頭が客間の窓から、見え、たくさん[#「たくさん」は底本では「たんさん」]の手がふられ、いっせいにさけぶ声が耳をうったのです。
「ローレンスさんから御返事よ!」
ベスは胸をとどろかせながら、いそいで帰って来ました。すると、姉妹たちは扉口のところに待っていて、ベスをつかまえ、わいわいいいながらかついで、客間へつれていきました。
「ほれ、あれよ!」と、みんなが、ゆびさすほうを見たとき、ベスはうれしいのと、おどろいたのとで、まっさおな顔色になりました。ああ、そこには、小さなキャビネット・ピアノがおいてあって、ぴかぴかしたふたの上に「エリザベス・マーチさん」にあてた手紙がのっていました。
「あたしに?」と、ベスはジョウにつかまり、たおれそうな気がしながら、あえぐようにいいました。ジョウは、手紙をわたしながら、
「そう、あんたによ、いい方ね、世の中で一ばんいいおじいさんね、かぎも手紙のなかにあるわ。」といいました。
「読んでちょうだい、わたし読めないわ。へんな気がして、ああ、とてもすてき!」と、ベスはそのおくりものに、すっかりどぎもをぬかれてしまって、ジョウのエプロンに顔をかくしました。ジョウは、手紙を開きましたが、最初の言葉を見て笑い出しました。そこには、
「マーチさん、親愛なるおくさん」と、書いてあったからです。
「まあいいこと! あたしにも、だれかがそんなふうに書いて手紙くれるといいわ。」と、エミイがいいました。エミイは、こういうむかし風の書き出しは、たいそう上品のように思われました。
「小生これまでに、かず多くスリッパを使用いたし候が、あなたよりおくられしスリッパのごとく、小生に似合うものこれなく、三色すみれ、すなわち心を安める花は、小生の愛する花にて、やさしきおくり主を常に思い起させてくれるものと存じ候。よって小生は小生の負債をはらいたく、なにとぞこの老紳士の小さき孫のものたりし、あるものを、あなたにおくることをお許し願い上げ候。心よりの感謝と祝福をこめて、あなたのよろこんでいる友だちでもあり、いやしき召使の、ジェームス・ローレン
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