になるベスだけが、心こめてうたいました。
 讃美歌がおわると、娘たちはおかあさんにキッスして、しずかに床にはいりました。ベスとエミイは、大きな心配ごとがあっても、すぐにねむりましたが、メグはねむれませんでした。ジョウは、身うごきもしなかったので、メグはもういもうとがねむったことと思っていましたが、おさえつけたようなすすり泣きを聞いたので声をかけました。
「ジョウ、おとうさんのことで泣いてるの?」
「今はそうじゃないの、あたしの髪のこと。」
 ジョウは、そういって、なおもはげしく泣きました。メグは、なやめるいもうとにキッスし、その頭をなでました。
「後悔はしていないの。だけど、美しいものをなくしたので、ちょっとばかり泣いただけ。でも、もうすっかりおちついたから、だれにもいわないで。おねえさんは、どうしてねられないの?」
「とても心配なので。」
「たのしいことを考えてごらんなさい。ねむれてよ。」
 話しているうちに、ジョウが大きく笑ったので、メグはおしゃべりをやめようといって、ジョウの髪にカールをかけることを約束し、やがて二人はねむってしまいました。
 時計が、十二時をうち、ひっそりと部屋がしずまったとき、一人の人かげが、娘たちのベッドからベッドを歩き、ふとんにさわったり、枕をなおしたり、ね顔をながめたり、唇にそっとキッスしたり熱いいのりをささげたりしました。
 その人かげが、カーテンをひいて、わびしい夜空を見あげたとき、ふいに黒雲のかげから月があらわれて、あかるい慈悲ぶかい顔のように、その人かげに照りましたが、その顔は、言葉なき言葉で、こうささやいているように思われました。
「心やすくあれ、いとしき魂よ、雲のかげには、いつも光あり。」

          第十六 手紙の花束

 寒い、うすぐらい夜明けに、姉妹たちはランプをつけて、今までにない熱心さで聖書を読みました。その小さな書物には、救いとなぐさめがあふれていました。
 階下へおりていくと、もう仕度はできて、ハンナがいそがしく台所ではたらいていました。おかあさんは、夜ねむらなかったので、ひどくやつれて見えました。心配の多いおかあさんを悲しませないように、旅に送り出すつもりでしたが、おかあさんの顔を見ると、つい涙ぐまずにはいられなくなりました。おかあさんは、食卓についてもあまり食べませんでした。
 馬車の来るまで、
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