みんなはあまり話さずに、おかあさんの身のまわりの用事をしました。おかあさんがいいました。
「おかあさんは、あなたがたを、ハンナとローレンスさんにお願いしていきます。ハンナは心からの律義者ですし、おとなりのあの親切なかたは、あなたがたを、じぶんの娘のように守って下さいます。ですから、すこしもあたしは心配しませんが、ただ、この不幸をよく理解して、留守中、悲しんだり、いらいらしたり、なまけたりせずに、めいめいの仕事をやって下さい、希望をもってはたらきどんなことが起っても、けっしておとうさんを失わないということを覚えていらっしゃい。」
「はい、おかあさん。」
 おかあさんは、なおもこまかく、一人一人の娘に注意をあたえました。
 馬車の音がしたとき、みんなはよくこらえて、悲しみの声をたてる者はありませんでした。ただ、しずかにおかあさんにキッスして、馬車が動き出したら、元気で手をふろうと思いました。
 ローリイとおじいさんが見送りに来てくれました。同行するブルック先生は、いかにも頼もしく見えましたので、巡礼ごっこのなかの案内者グレート・ハート氏という、あだ名を、さっそくつけました。馬車が走り出したとき、いい前ぶれのように、ちょうど日光が見送りのみんなを照らしました。そして、おかあさんが角をまがるとき、最後に目にはいったのは、四つのかがやかしい顔と、そのうしろに護衛のように立っているローレンス老人と、ハンナと、誠実なローリイのすがたでした。
「みなさん、なんて親切にして下さるのでしょう。」と、おかあさんは、ブルック青年の顔にあらわれた尊敬と同情を見ました。
「だれだって、あなたがたに親切にせずにはいられないのです。」と、ブルック先生は、気持よく笑ったので、おかあさんもほほえまずにはいられませんでした。こうして長途の旅行は、日光と微笑と、たのしい言葉の、よい前兆ではじめられました。
「あたし、なんだか地震でもあった後のような気がするわ。」と、おとなりの二人が帰っていってしまうと、ジョウがいいました。
「家が半分なくなってしまったようね。」と、メグがさびしそうにいいそえました。
 そして、娘たちは、勇ましい決心をしていたにかかわらず、その場に泣きくずれてしまいました。ハンナは、気をきかして、そっとしておき、どうやら夕立が晴れもようになったとき、コーヒーわかしを持って来ました。
「さ、
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