花瓶にさしました。
「メグねえさんには、手紙が一本、手ぶくろが片っぽ。」
 メグは、おかあさんのそばにすわって、シャツのそで口をぬっていましたが、
「あら、りょうほう忘れて来たのに。お庭に落して来やしない?[#「しない?」は底本では「しないい?」]」
「いいえ、郵便局に片っぽしかなかったわ。」
「片っぽなんていやだわ。でもそのうちに片っぽ見つかるでしょう。あたしのお手紙は、ドイツの歌の訳したのがはいっているだけ、きっとブルック先生がなさった[#「なさった」は底本では「なかった」]のね。」
「ジョウ博士には、手紙が二通、本が一冊、おかしな古帽子、帽子は大きくて、郵便局からはみ出していました。」
 ベスは、書斉でなにか書きものしているジョウに、笑いながらいいました。
「まあ、いやなローリイさん、あたし日にやけるから大きな帽子がはやるといいといったら、流行なんか気にしないで、大きな帽子かぶりなさいっていうから、あればかぶるといったの。いいわ。あたしかぶって、流行なんか気にしないこと見せてあげよう。」
 その帽子をそばの胸像にひっかけて、手紙を読みはじめました。それはおかあさんからの手紙で、ジョウの目はよろこびにかがやきました。
「愛するジョウ――あなたが、かんしゃくをおさえようと努めているのを見て、[#「、」は底本では「。」]かあさんはたいへんうれしく思っています。あなたはその試み、失敗、成功についてなにもいわないし、日々あなたを助けて下さる神さまのほかには、だれも見ていないと考えておいででしょう。けれど、かあさんものこらず見ていました。そして、りっぱな実がむすびそうですから、あなたの決心が真心からであることがわかります。愛する娘よ、しんぼう強く勇ましくやり通して下さい。かあさんが、あなたに同情をよせていることを、常に信じて下さい。」
「まあ、うれしい。百万円もらって山ほど賞讃されるよりうれしい。かあさんが助けて下さるんですもの、あたしやります。」
 ジョウは、顔をふせたので、うれし涙で原稿をぬらしてしまいました。やっと顔をあげたジョウはこのありがたい手紙を、ふいにおそって来る敵へのふせぎの楯にするつもりで、上衣の内がわにピンでとめました。
 もう一つの手紙はローリイからでした。
「やあ、親愛なるジョウさん、明日、イギリス人の男の子と女の子が二三人来るから、おもしろくあそ
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