ほど、スリッパが火にかかっていました。ベスは、おけいこを見て夢中だったのです。みんなは大笑いしました。
「ずいぶん、たのしそうね。」と、戸口でおかあさんの声がしました。ねずみ色の外套を着て、流行おくれのボンネットをかぶったおかあさんも、娘たちの目には、この世でならびない、すばらしい人としてうつりました。
「今日はべつになんにもなかったの? おかあさんは、明日送りだす慰問箱の仕度でいそがしくて、御飯までに帰れなかったの。ベス、どなたかお見えになった? メグ、かぜはどう? ジョウ、あなたはひどく疲れているのね、さあさあ、みんな来て、キッスしてちょうだい。」
 マーチ夫人はぬれた外套をぬぎ、あたたかいスリッパをはき、ソファに腰をおろして、エミイ[#「エミイ」は底本では「アミイ」]を膝にのせ、多忙な一日の一ばんたのしいときを、たのしむのでした、メグとジョウとベスは、さっそくとびまわって、食事の支度をし、すべてととのうと、みんなテーブルのまわりにつきました。
「晩御飯がすんだら、みんなにおみやげをあげますよ。」
 さっと、あかるいほほえみ[#「ほほえみ」は底本では「ほえみ」]が、みんなの顔をかがやかしました。ジョウは、ナフキンをほうりあげてさけびました。
「手紙だ、手紙だ、おとうさん、ばんざい!」
「ええ、いいお便りです。おとうさんは、おたっしゃで、案じていたほどでもなく、この寒い冬を元気でお過しなされそうですって。」
 おかあさんは、そういって、まるで宝物でもはいっているように、ポケットをたたいて見せました。さあ、もうゆるゆる食事なんかしていられません。パンを床に落したり、お茶にむせたりしてたいへんでした。
「さあ、それでは、お手紙を読んであげましょうね。」
 みんなは、ストーブの前にあつまりました。おかあさんはソファにかけました。こういう非常のときの手紙は、つよい感動をあたえるものですが、この手紙もそうで、危険に身をさらしたとか、つらいとかということは、すこしも書いてなく、露営、進軍、戦況などがいきいきとした筆で書かれ、たのしく希望にみちていましたが、最後のところで、大きな感動をあたえました。
「娘たちに、わたしの愛とキスをあたえて下さい。昼は娘たちのこと思い、夜は娘たちのために祈り日夜娘たちの愛情のうちに慰めを見出しています。娘たちとあうまでの一年は、長く思われるが、待
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