手を組み、天井をあおいで部屋を歩きながらいいました。
「おかあさんには、わたしたちが、じぶんのものを買っていると思わせておいて、びっくりさせてあげましょうよ。メグ、明日の午後に買物にいかないと、クリスマスのお芝居のことで、することがたくさんあるわ。」
すると、メグがいいました。
「あたし今度きりで、もうお芝居なんかしないつもりよ。あんなこと子供くさいもの。」
「だって、ねえさんは一ばんの役者ですもの、ねえさんがぬけたらおしまいよ。エミイ、さあ、いらっしゃい。おけいこしましょう。気を失うところをなさい。あんたは火ばしみたいにかたくなるんだもの。」
「しかたがないわ。気を失うとこなんか見たことないんですもの。」
「こうやるのよ。手を組み合せて、ロデリゴ! 助けて、助けて! と[#「 と」は底本では「と 」]気狂いみたいにさけびながらよろけて部屋を横ぎるの。」
ジョウは、ほんとに悲鳴をあげてやってみせました。それにならってエミイもやりましたが、まるでぎこちなく、おお! という声だって、絶望どころか、身体にピンでもささった時のようでした、ジョウががっかりしてうめくと、メグは笑いだすし、ベスもおかしがって、パンをこがしてしまいました。
「おけいこしてもむだだわ、そのときになって、できるだけになさい、見物が笑っても、あたしのせいにしてはいやよ、さあ、それでは、今度はねえさんよ。」
それからは、すらすらと進行しました、ジョウのドン・ペデロは長い科白をまくしたてて世をあざけり、魔女のハーガーは、ひきがえるのいっぱいはいった釜をのぞいて呪文をとなえ、ロデリゴは、おおしくも鉄のくさりをたちきり、ユーゴーは毒をあおいで苦しみながら死んでいきました。
「今までのおけいこのうちで、一ばんうまかったわ、」と、メグがいうと、ベスも「ジョウねえさん、どうしてこんなりっぱなものが書けるの? それに、お芝居もじょうずだわ、」
「それほどでもないけど、この『魔女の呪い』は、すこしはいいかもしれないわ、それはそうと、シェークスピアの『マクベス』がやってみたいのよ。」と、いって、
「目の前にちらつくは短剣か?」と、有名な悲劇役者のしぐさをまね、目の玉を光らし、虚空をつかんでいいました。すると、メグがさけびました。
「あら、フォークにさしてやいてるのは、パンじゃなくて、おかあさんのスリッパよ、」
なる
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