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   おもひで話

ゆうべのことだ
ストーブのなかで
ぼくだけ聞《き》いた。

むかしのむかし
土《つち》ンなかにゐた時の
石炭たちの
おもひで話

くすくす笑《わら》つて
まつ赤《か》になつて
石炭たちの
おもひで話。

ゆうべのことだ
ストーブのなかで
ぼくだけ聞いた。
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   白いお手

ひとりぼつちでゐる時に
ぼくはいつでも思ひだす

それはきれいなねえさんの
ほんとにやさしい白いお手

「おりこうさんね」といひながら
ぼくの頭をなでたお手

いつのことやら忘れたが
どこのだれやら忘れたが

ぼくはいつでも思ひだす
そしてなぜだか涙ぐむ。
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   風と月

子供よ 子供よ
どこへ行く?
はりがね持つて
どこへ行く?

風をしばりに
行くんだよ
だつてかあさん
ご病氣で
風が吹くのが
さみしいの。

子供よ 子供よ
どこへ行く?
ふろしき持つて
どこへ行く?

月をつつみに
行くんだよ
だつてかあさんは
ご病氣で
月が照るのが
かなしいの。
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   あがり双六

あがり双六《すごろく》
東海道
五十三次
長道中《ながどうちゆう》。

振つた賽《さい》ころ
ころがして
目數《めかず》かぞへて
急《いそ》ぎやんせ。

泊りかさねて
おくれると
連《つ》れは追ひ越す
先へ行く。

わけて箱根と
大井川
たんと氣をつけ
通りやんせ。

さても御無事《ごぶじ》で
長道中
あがりや西京
花ざかり。

花を見ながら
御褒美《ごほうび》の
お菓子たくさん
食《た》べしやんせ。
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   雲の羊

ふはりふはりと
空をゆく
雲の羊に
乘りたいな。

空の牧場を
ひとめぐり
乘つてまはれば
たのしかろ。

ちりんちりんと
鳴る鈴は
羊のくびに
ないけれど、

かはりにぼくが
口笛を
じやうずに吹いて
ひびかせる。

思ふだけでも
うれしいな
雲の羊に
乘りたいな。
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   口わる烏

いつも學校の
ひけどきに
口《くち》わる烏《からす》が
やつて來る。

今日もあたいが
算術で
乙をとつたら
知つてゐて、

屋根にとまつて
下《した》向《む》いて
大きな口で
ガアと啼《な》いた。

石をほうつて
やりたいが
甲でなかつた
はづかしさ。

今度はきつと
甲とらう
口わる烏が
笑ふから。
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   野原と小川

丘にのぼつて
眺めたら
まるで姉さんの
お羽織を
ひろげたやうな
野原です。

赤や黄色に
咲く花は
青地に染めた
飛模樣《とびもやう》
のどかなのどかな
五月です。

丘にのぼつて
眺めたら
まるで母さんの
丸帶を
ほどいたやうな
小川です。

水のおもての
かがやきは
浮《う》き織りにした
銀の糸
のどかなのどかな
五月です。
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   足柄山

足柄山《あしがらやま》の
かすみは深い
山道すつかり
かくれてしもた。

金太郎さんは
困つてしもた
仕方がないから
おういと呼んだ
まつかな顏《かほ》して
おういと呼んだ。

するとのつそり
熊が顏出した
金太郎さんは
おどろいてしもた
なんだそんなに
近くにゐたか

足柄山の
かすみは深い
山道すつかり
かくれてしもた。
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   ふしぎな人形

銀のお月さま
かたいかな
かたくないなら
小刀《こがたな》で
ぼくは人形が
きざみたい。

できたら星を
目にはめて
夕日の紅《べに》を
口《くち》にさし
雲をちぎつて
髮にする。

とてもふしぎな
人形だ
きつとみんなは
ほしがるが
ぼくはだいじに
しまつとく。
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   自動車

花の小徑《こみち》を
走るのは
おもちやの赤い
自動車よ。

小徑のみぎと
ひだりには
きれいに咲いた
春の花。

みんな笑つて
うれしそに
走る自動車
見送るに、

ほんにおしやれの
ばらばかり
さも乘りたそに
のびあがる。
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   五つの色

今朝《けさ》のお膳《ぜん》は
きれいだな
五つの色が
ならんでる。

赤い梅ぼし
黒い海苔《のり》
燒いた玉子は
まつ黄色《きいろ》。

御飯《ごはん》は白く
味噌汁に
浮《う》いて青いは
ほうれんさう。

おとぎばなしの
王さまが
召しあがるよな
朝御飯。

ぼくはすつかり
よろこんで
五つの色に
見とれたよ。
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   ねむり姫

黄金《きん》のお城の
ねむり姫
ねむつたままで
かはいさう。

冬のなぎさに
あげられた
貝のふたより
まだかたく、

春待つ花の
つぼみより
まだまだかたく
ぴつちりと、

つむつたままの
二つの目
三年三月
ねてしもた。

黄金《きん》のお城の
ねむり姫
魔法をといて
あげたいな。
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