かつたら。

なんてやさしい
話しごゑ
のぞいて見れば
てふてふは

小《ちひ》さいすみれの
花のかげ
とんとんとろりと
もうねてた。
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   つかまへたいな

つかまへたいな
まつ白い雲《くも》を
お空でをどる
まつ白い雲を。

つかまへたいな
小《ちひ》ちやな風を
葉《は》つぱをゆする
小ちやな風を。

つかまへたいな
かはいい聲を
あかちやんの笑ふ
かはいい聲を。
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   熊

のつそり のつそり
檻《をり》のなか
行《い》つたり來《き》たり
黒い熊《くま》。

暑《あつ》さも暑《あつ》いし
日は長《なが》い
朝からあくびは
十六ぺん。

しかたがなしに
首《くび》ふつて
のつそり のつそり
黒い熊。
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   さくらの花道

さくらの花道《はなみち》
花のかげ
白いほんぼり
灯《ひ》がとぼる。

とぼりやほんのり
夢のいろ
さくらの花が
うすあかい。

もしも雪駄《せつた》で
稚子髷《ちごまげ》で
ゆらり袂《たもと》で
通《とほ》つたら

さくらの花道
花のかげ
むかしの夢が
見れるだろ。
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   春の山

霞の蒲團に
くるまつて
ぬくぬくお晝寢《ひるね》
春の山。

そよ風そより
吹いてるに
まだまだお肩《かた》が
まるござる。

霞の蒲團は
ふうわふわ
いつまでお晝寢
春の山。

鳶《とんび》がとろり
啼《な》いてるに
まだまだお背《せな》も
まるござる。
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   あがり目さがり目
     ――むかしの遊戲唄につけ足して
       今の子供たちにおくる――

あがり目《め》 さがり目《め》。
ぐるつとまはつて猫《ねえこ》の目。

あがり目はおこり目
あがり目をしたらば
おこりたくなあつた。

さがり目はわらひ目
さがり目をしたらば
わらひたくなあつた。

猫《ねえこ》の目は猫《ねえこ》の目。
猫の目をしたらば
ねずみが見えた。

あがり目 さがり目
ぐるつとまはつて猫の目。
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   だだつ子

だだつ子こねた
だだこねた
靴屋の店で
だだこねた。

これもいやだよ
あれもいや
顏をしかめて
だだこねた。

そんならどれが
買《か》ひたいの?
やさしくかあさん
きいたけど

だだつ子こねた
だだこねた
頭《あたま》ふりふり
だだこねた。
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   柳と松

そらそらお庭を
見てごらん
柳はやさしい
おぢやうさん
松はがうじやう
おぼつちやん。

遊びませうと
風が來て
あんなに誘《さそ》つて
ゐるけれど
松はだまつて
知らぬ顏。

風ともつれて
遊ぶのは
しなしな青い
ふり袖《そで》の
やさしい柳の
おぢやうさん。
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   りんごの皮むき

さあさりんごの
皮むきだ
きれずに長く
つながつて
するするむけば
いいんだよ。

お人形《にんぎよう》さんの
帶《おび》のよに
腕《うで》[#ルビの「うで」は底本では「で」]の時計《とけい》の
紐《ひも》のよに
ちやんときれいに
むくんだよ。

さあさりんごの
皮むきだ
銀《ぎん》のナイフは
よく切れる
手《て》を氣《き》をつけて
むくんだよ。
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   春が來た

そよそよ春風《はるかぜ》
吹いて來て
やさしい聲で
いひました。

「かはいいつぼみよ
みなお起《お》き
起きなきやそうれ
くすぐるよ!」

そこでつぼみは
目をさまし
花を咲かして
いひました。

「おやもう春が
來《き》てたのか
あたり近所《きんじよ》が
まぶしいな!」
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   野の花

つくしんばうは
お坊《ばう》さん
おつむはいつも
くうるくる。

たんたんたんぽぽ
兵隊《へいたい》さん
かぶつた帽子《ばうし》にや
金《きん》かざり。

かはいい小娘《こむすめ》
れんげさう
あかい花櫛《はなぐし》
ちいらちら。

それぢやすみれは
なんだろな
むさらき頭巾《づきん》の
お尼《あま》さん。
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   白い齒

櫻《さくら》のつぼみが
まだ小《ちい》さい。
坊《ばう》やの齒《は》ぐきは
まだかたい。

櫻のつぼみが
ふくらんだ
坊やの齒ぐきも
ふくらんだ。

櫻のつぼみが
色《いろ》づいた。
坊やの齒ぐきも
色づいた。

櫻のつぼみが
ひいらいた。
坊やの白い齒
そら生えた。
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   葉山の海

葉山の海は
青《あを》かつたよう
波《なみ》がさびしく
寄《よ》せてたよう。

御用邸《ごようてい》にや松《まつ》が
ならんでたよう
枝《えだ》をさびしく
まげてたよう。

だつて天子《てんし》さま
おわづらひだよう
長《なが》くふせつて
おいでだよう。

ぼくはさびしく
おがんだよう
おいのりささげて
來《き》たんだよう。
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