柳と松

そらそらお庭を
見てごらん
柳はやさしい
おぢやうさん
松はがうじやう
おぼつちやん。

遊びませうと
風が來て
あんなに誘《さそ》つて
ゐるけれど
松はだまつて
知らぬ顏。

風ともつれて
遊ぶのは
しなしな青い
ふり袖《そで》の
やさしい柳の
おぢやうさん。
[#改ページ]

   りんごの皮むき

さあさりんごの
皮むきだ
きれずに長く
つながつて
するするむけば
いいんだよ。

お人形《にんぎよう》さんの
帶《おび》のよに
腕《うで》[#ルビの「うで」は底本では「で」]の時計《とけい》の
紐《ひも》のよに
ちやんときれいに
むくんだよ。

さあさりんごの
皮むきだ
銀《ぎん》のナイフは
よく切れる
手《て》を氣《き》をつけて
むくんだよ。
[#改ページ]

   春が來た

そよそよ春風《はるかぜ》
吹いて來て
やさしい聲で
いひました。

「かはいいつぼみよ
みなお起《お》き
起きなきやそうれ
くすぐるよ!」

そこでつぼみは
目をさまし
花を咲かして
いひました。

「おやもう春が
來《き》てたのか
あたり近所《きんじよ》が
まぶしいな!」
[#改ページ]

   野の花

つくしんばうは
お坊《ばう》さん
おつむはいつも
くうるくる。

たんたんたんぽぽ
兵隊《へいたい》さん
かぶつた帽子《ばうし》にや
金《きん》かざり。

かはいい小娘《こむすめ》
れんげさう
あかい花櫛《はなぐし》
ちいらちら。

それぢやすみれは
なんだろな
むさらき頭巾《づきん》の
お尼《あま》さん。
[#改ページ]

   白い齒

櫻《さくら》のつぼみが
まだ小《ちい》さい。
坊《ばう》やの齒《は》ぐきは
まだかたい。

櫻のつぼみが
ふくらんだ
坊やの齒ぐきも
ふくらんだ。

櫻のつぼみが
色《いろ》づいた。
坊やの齒ぐきも
色づいた。

櫻のつぼみが
ひいらいた。
坊やの白い齒
そら生えた。
[#改ページ]

   葉山の海

葉山の海は
青《あを》かつたよう
波《なみ》がさびしく
寄《よ》せてたよう。

御用邸《ごようてい》にや松《まつ》が
ならんでたよう
枝《えだ》をさびしく
まげてたよう。

だつて天子《てんし》さま
おわづらひだよう
長《なが》くふせつて
おいでだよう。

ぼくはさびしく
おがんだよう
おいのりささげて
來《き》たんだよう。
[#改
前へ 次へ
全10ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
水谷 まさる の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング