などといふのはどうか。作り話と聞えるだらうが、これも実話である。やがて日が暮れ暗くなつて帰るとき、そこの石段のところ足許が危いから、たいまつを灯しませうと、これもそれをぐるぐると巻いて燃やしつけて送り出したと、さる友人の偽はらぬ打ち明け話なのである。それでその女の人は、それと気づいてゐたのかと尋くと、さあどうだらうなと、友人は笑つただけだつた。
旦那さんを連れて、昔の恋人だつた男の許を訪ねる。などといふ女性心理、これはどうも男にはわからない。が、こんな場合、男は男同士、妙な友情を感じあつたりするものではある。これは女にはわからん機微かもしれぬ。かうなると、所詮、男は男で、女は女といふことになるか。
ベートォヴェン、彼はよく女に恋した。恋した熱情をガソリンにして音楽を作り上げたといつてもいゝ、有名な『月光曲』もさうである。ところで、この『月光曲』を彼に作らせた女の人は、単純なフラッパァであつたらしく、まもなく彼の許から遠のいて、ある伯爵と結婚してしまつた。その後ベートォヴェンは以前よりも一層有名な音楽家になる。ワイマール大公やその他当時の貴族たちの尊敬をうける。そこで彼女は伯爵をつ
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