烈婦
高田保

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)却《かえ》って

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#天から3字下げ]国境を知らぬ草の実こぼれ合い
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「世界情勢吟」と題して川柳一句をお取次ぎする。
[#天から3字下げ]国境を知らぬ草の実こぼれ合い
 なんと立派なものではないか。ピリッとしたものが十七字の中に結晶している。ところでこれがなんと、八十三歳のお婆さんのお作なのだ、驚いていただきたい。
 井上信子、とだけではわかるまい。が井上剣花坊の未亡人だといったら、なるほどと合点なさるだろう。「婦人朝日」誌上で紹介されていたのだが、こぼれ合う草の実こそは真実の人間である。真実の人間同士の間には国境などというあざといものはありゃしない。
 この草の実のこぼれ合いを眼の中に入れてないところに、世界の政治の愚劣さがある。侵略とか防衛とかいうが、一たびこの十七字の吟ずるところに徹して考えるがいい。人間のあさましさ、百度の嘆息をしても足りぬことになるだろう。この句のこの味、もしもそっくり伝えられるものなら翻訳してもらって外国へも紹介した
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