い。もう一寸早ければ、ダレスさんにお土産としてもって帰っていただきたかったところだ。
八十三歳の老婦人にしてこれほどの「世界情勢吟」をするのだから、日本の文学者諸君はさぞかし、と外国人はおもうかもしれぬ。そうなるとしかしこれは一寸困る。日本文学というやつは大体が政治嫌いでしてと、いろいろ特殊な伝統の説明などして、依然安閑たる文壇風景を弁解しなくてはなるまい。ペンクラブへは代表を出すのだが、世界の他の文学者諸君とは生活がちと違うのである。
だが、これからもなお「日本的」であっていいのか? もしも「世界的」にと明日を心がけるなら、やはり世界の問題へ目を向け頭を向け、草の実のこぼれ合うこまかい気を配って、文学は文学なりの「世界的発言」をせずばなるまい。税金の問題よりゃ戦争の方が実は却《かえ》って身近の大事なのである。文芸家協会など、これに対してどう動いているのであろう。
井上信子老女史は、戦争中にも警察へ引っぱられたりしたのだそうである。「手と足をもいだ丸太にしてかへし」という句などがお気にさわったらしくと、今は笑っていられるのだそうだが、私などあの戦争中の自分を省みて恥かしくおもう。
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