りわけ、よそのうちの、屋根うらの窓を見ると、どんなにがまんをしようたつて、がまんが出来ず、つひ雨樋なぞにつかまつて、かけ上つて、一ばんたかい部屋へはいりこむのだといふのです。
「まつたく屋根うらの部屋の窓を見ると、たまらないんです。外をあるいてゐて、ふと目を上げると、屋根裏の高窓があいてゐます。どこの家でも、気をゆるめて、一ばん上の窓は、きまつて、開けッぱなしにしてゐます。私は、人の家に、屋根うらの部屋がついてゐるかぎりは、いつまでたつても、この物ずきはやめられません。下手につかまつては牢へぶちこまれますが、しかし今まで、一度だつて物一つ盗んだことはありません。たゞ、高い部屋へはいりこんで見たくてはいるのです。どうか、今度は罰として、帆前船へでも乗り組ませてはいたゞけないでせうか。帆前船ならたかい帆綱がありますから自由にかけ上れます。でなくばいつそ、ベドゥインの村へでも追ひやつて下さいますと、警察のお手数もなくなるわけですが。」
 まじめくさつて、かういふのですから、かゝり官もあきれました。ベドゥインと言ふのは、アラビヤやシリア地方にある、アラビア人の遊牧民で、さういふ土人は、羊を飼つ
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