はあまりの意外に、びつくりしました。
何だつて、そんなざま[#「ざま」に傍点]をしてるのだ、と聞きますと、だつて遊牧民になつたんだから仕方がないと言ひます。どうしたのだ、その左の手はと私は、これにも、おどろいて聞きました。着物の左手が、空つぽで、ふは/\してゐたからです。すると、彼はこれはトルコ人に聞いてくれないと分らない、少しばかりイギリスのために動きまはつたもので、と答へます。――何をしたんだ。――何だつていいよ――で、そのボウトで、どこかへいくのか。――商ばひで、バスラまで――何を売りにいくのだ。――機械じかけの玩具と、軍服と、それからまだいろ/\のものを売りつけにいくんだ。――ふうん、それが、バスラではけ[#「はけ」に傍点]るかね。――さああんまり、よろこびもしまいけれど。――彼はかう言つて、にた/\笑ひながら、何か悪企でも抱いてゐるやうなずるい笑ひを見せて河岸へ上つていきました。これだけです。彼からは、コロンボでの下船以来、それとも最近に何か音信が来ましたか。」
船長はウ※[#小書き片仮名ヲ、398−下−13]ルターを国家のためにあれだけのりつぱな手柄をした勇士とは思はず
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