唖の泥棒がおしこめられてゐたことに、はじめて気がつきでもしたやうに、あわてゝバケツへ少しばかりの飲水を入れ、錫の水飲みをそへて持つていきました。
 唖は、手をふりあげたり口をあけたり、種々さま/″\の手ぶり手まねをして、そんな水なんぞが何になる、食べるものをくれろ、分らないのか、おい食べものだよ、といふ意味をくりかへし/\して見せました。しかし、ぼんやりぞろひの看守人たちには唖のすることが、ちつとも通じません。そのうちに、唖は、一人の看守に向つて、両手を寝台の方へぐいとつきつけました。看守は、寝台をわきへもつていけといふのだらうと合点して、その下にしいてある、ぼろけた、じゆうたん[#「じゆうたん」に傍点]を、めくりとりました。唖はとう/\じれッたさまぎれに前後をわすれて、
「ちよッ、しやうのないばか[#「ばか」に傍点]だね。食ふものをもつて来い。かつゑてしまはァ。」と、どなりつけました。
 こんなことから、唖は、すつかりばけの皮をめくられ、警官のとりしらべにも一々答へをしなければならなくなりました。
 しらべ上げて見ますと、この犯人は、ちかくのある町のもので、ウ※[#小書き片仮名ヲ、3
前へ 次へ
全32ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング