おやと思つて、あとしざりをして屋根の上を見ますと、小さな一ぴきの小猫が、前後も考へないで冒険して、その高屋根の上までのぼつたものゝ、下りるには、足がゝりがないために、ミヤオミヤオと人のたすけをもとめてゐるらしいのです。
 ウ※[#小書き片仮名ヲ、393−上−7]ルターは思はず雨樋の下までかけつけました。それから、ちよつと立ちどまつて、又、ない左手の肩先をふりかへりましたが、つぎの瞬間には、右手一本で雨樋につかまつたと見ると、まるでりす[#「りす」に傍点]かなぞのやうに、ものゝ四十秒もたゝないうちに、もう屋根のはしのところまでかけ上り、小猫をつかまへて上着のふところ[#「ふところ」に傍点]に入れました。そしてする/\ッと下りて来て、小猫を地びたにおいてやりました。
 あたりの人はびつくりして、目を見はつて見てゐました。
 その群集の中に、ふと二人のドイツ人がゐました。二人は、たゞの小猫一ぴきをたすけるために、こんなあぶないまね[#「まね」に傍点]をする乞食のばか[#「ばか」に傍点]さ加減を嘲るやうに、ウ※[#小書き片仮名ヲ、393−上−17]ルターの顔をふりかへりながら向うへ歩いていきま
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