ん顔をつッこんでうつ伏《ぶ》しになっていたが、しまいには、のどがかわいて目がくらみそうになる、そのうちに、たまたま、水見たいなものが手にさわったので、それへ口をつけて、むちゅうでぐいぐい飲んだまではおぼえているが、あとで考えると、その水気《みずけ》というのは、人の小便《しょうべん》か、焼け死んだ死体のあぶらが流れたまっていたのだろうと話しました。
 そのほかいろいろの方面のそう[#「そう」に傍点]難者について、さまざまのいたいたしい話を聞きました。永代橋《えいたいばし》が焼けおちるのと一しょに大川《おおかわ》の中へおちて、後《あと》でたすけ上げられた或婦人なぞは、最初三つになる子どもをつれて、深川の方からのがれて来て、橋の半ば以上のところまで、ぎゅうぎゅうおされてわたって来たと思うと、急に、さきが火の手にさえぎられて動きがつかなくなり、やがてま上《うえ》へもびゅうびゅう火の子をかぶって息も出来ません。婦人はもうこれなり焼け死ぬものと見きわめをつけやっと帯や小帯《こおび》をつないで子どもをしばりつけて川の上へたぐり下《おろ》し、下を船がとおりかかったらその中へ落すつもりでまっているうちに
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