府、神奈川、静岡、千葉、埼玉県に戒厳令が布《し》かれ、福田大将が司令官に任命されて、以上の地方を軍隊で警備しはじめました。そのため、東京市中や市外の要所々々にも歩哨《ほしょう》が立ち、暴徒しゅう来《らい》等の流言にびくびくしていた人たちもすっかり安神《あんしん》しましたし、混雑につけ入って色んな勝手なことをしがちな、市中一たいのちつじょ[#「ちつじょ」に傍点]もついて来ました。出動部隊は近衛《このえ》師団、第一師団のほか、地方の七こ師団以下合計九こ師団の歩兵|聯隊《れんたい》にくわえて、騎兵、重砲兵、鉄道等の各聯隊、飛行隊の外、ほとんど全国の工兵大隊とで、総員五万一千、馬匹《ばひつ》一万頭。それが全警備区に配分されて、配給や救護や、道路、橋の修理などにも全力を上げてはたらいたのです。軍用|鳩《ばと》も方々へお使いをしました。
 同時に海軍では聯合艦隊以下、多くの艦船を派出して、関西地方からどんどん食料や衛生材料なぞを運び、ひなん者の輸送をもあつかい出しました。
 同日、摂政宮殿下からは、救護用として御内《ごない》ど[#「ど」に傍点]金《きん》一千万円をお下《くだ》しになりました。食料品
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