つかんだので、先生はあとすざりをしました。ガスパールは、
「いゝとも、憲兵をつれて来いよ。」と、どなりました。叔父はこはくなり出したと見え、とびかゝつてそのほう丁をもぎとりました。ガスパールが、
「ぼくはいかないよ。いかないんだい。」と、さけびつゞけるのを、人々はよつてたかつて、そこいらへしばりつけました。ガスパールは歯をくひしばり、あわをふいて、
「をばさァん。」とよびました。叔母さんは、泣きふるへながら二階へ上つてしまつてゐました。
 馬車のしたくをする間に、ヘナンは、私たちに食事をさせようとしました。私は、ひもじいどころではありませんでした。クロック先生だけは、むさぼるやうに食べました。ヘナンは、ガスパールが先生とドイツ皇帝をのゝしつたことを、くりかへし/\先生にわびました。憲兵がおそろしかつたのです。


    四

 何といふ、かなしい、もどり道だつたでせう。ガスパールは、馬車のおくのわら[#「わら」に傍点]の上に、病気の羊のやうによこたはつたきり、もう一とことも言ひませんでした。私はガスパールが怒りと涙とにつかれつくして、寝入りこんだのだと思ひました。帽子もかぶらず、マン
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