口はないものかと、ぐるりを見まはしました。しかし先生の太い手は、すぐに、ガスパールの肩の上におかれました。先生は手みじかにガスパールがにげ出したことをヘナンに話しました。
ガスパールは頭を上げました。もう、しくじりをしてつかまつた生徒のやうな、はにかんだ容子はしてゐません。いつも、めつたに口をきいたことのないガスパールは、そのとき、ふいにじぷんの舌を見つけ出しでもしたやうにどなり立てました。
「あゝ、さうだよ。ぼくはにげて来たんだよ。二度と学校にいきたくないんだよ。ぼくはドイツ語なんか――どろぼうの、人殺しの言葉なんか、話さないよ。父さんや母さんのやうに、フランス語を話したいんだよ。」
ガスパールは、怒りでぶる/\ふるへながら、すさまじい、けんまくで、かう、どなりました。
「おだまり、ガスパール。」と叔父はおさへようとしました。でも何ものもガスパールをとめることは出来ませんでした。クロック先生は、
「かまひません。かまひません。ほつときなさい。私がいまに憲兵と一しよにつれに来ます。」と、あざわらひました。大きなほう丁がテイブルの上にのつかつてゐました。ガスパールは、それを、むづりと
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