トも着ないまゝなので、ひどく寒いだらうと気づかひました。しかし先生がこはいので何も言へません。
つめたい雨がふり出しました。クロック先生は、毛皮うらのついた帽子を耳まですつぽりかぶつて、鼻うたをうたひながら、馬を平手でたゝきました。
星の光りが風でをどりました。私たちは白い氷つた道をすゝみました。もう水車から遠くはなれて、せき[#「せき」に傍点]のひゞきもきこえません。そのときよわ/\しい、訴へるやうな泣き声がふいに車のおくから聞え出しました。その泣き声は、私たちの、アルザスの方言で言ひました。
「放しておくれよ、クロック先生。」
それはいかにも悲しい声だつたので、私は目に涙がにじみました。クロック先生は意地わるさうに笑つて、馬にむちをあてながら、うたをうたひました。
しばらくすると、また泣き声がおこりました。
「はなしておくれよ、クロック先生。」
やはり、ひくい、かなしい、機かい的な調子でした。かはいさうに、ちようどお祈りをでも暗誦してゐるやうに、つゞけました。
とう/\車はとまりました。私たちは学校へもどつたのです。クロック夫人は、校舎のまへに、がんどうぢようちん[#「
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