ぼくはいやだ。いきたいんだ。うちへかへりたいんだ。」
 ガスパールのこの考へは、しよせん、動かしやうがありませんでした。
 最初のころの、ものうさが、ガスパールの上に一そう、つよくもどつて来ました。夜あけがたに、ガスパールが寝床の上にすわつて、目を見すゑてゐるのを見ますと、私には、ガスパールが、今じぶん、もう目をさましてゐる水車場や、小さいときに、はいつてかきまはした、きれいな小川のことを考へてゐるのが感じられました。さういふものが、遠くからガスパールを引つぱるのです。その上に、先生がひどいことをするので、それがます/\ガスパールを家の方へおしやるのでした。ガスパールは、すつかり、荒くれて来ました。
 とき/″\、ガスパールが杖でたゝかれたあと、その二つの目が、怒りで一ぱいになるのを見ますと、私は、じぶんがクロック先生だつたら、その目つきがおそろしいだらうと思ひました。でも先生はちつともおそれませんでした。杖でなぐりつけたつぎには断食をさせました。しまひには牢屋を発明しました。ガスパールはその中におしこめられたきり、ほとんど外へは出されませんでした。


    三

 或日曜のことで
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