がつて来ました。
かはいさうにガスパールは、ないしようでフランス語を読み習ふのに、苦労をしてゐるので、ドイツ語は一つもおぼえるひまがありませんでした。ガスパールはドイツ語の一つの動詞の変化を口に言はされるのに、数時間もつッ立ちつくしてゐました。ガスパールの、しわめた眉の中には、習はうとする注意よりも、剛情と怒りとがひそんでゐるのが、だれにも感づけました。授業時間ごとに、同じ場面がくりかへされました。
「ガスパール・ヘナン、立て。」と先生が言ひます。
ガスパールは、ふくれッつらをして立ち上ると、つくゑによりかゝり、からだを左右にふるだけで、何にも答へずにすわるのでした。クロック先生はいきなりなぐりつけたり、あとで、食べものをやらなかつたりしました。しかし、そんなにされてもガスパールはちつとも、ものをおぼえませんでした。
晩になつて、尾根うらの小さな部屋へのぼつていくときに、私はよく、ガスパールに言ひました。
「泣くの、およしよ。ぼく見たいにやるんだよ。ドイツ語をよむのをおぼえなくちやだめだよ。だつてあいつらは、とてもつよいんだもの。」
でもガスパールは、いつもかういひました。
「
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