二

 私たちの仲間だつた子で、私がいつも、をしい子だとおもふのはガスパール・ヘナンです。ガスパールも、やはり一しよに屋根うらの小さな部屋に寝かされました。二年まへに両親になくなられた子で、粉ひき業をしてゐる叔父が、厄介ばらひに、ハメル先生にたのんで、すつかり学校へまかしたのです。
 ガスパールは来たときには年は十だつたのですが、大がらなので十五ぐらゐに見えました。ガスパールは、その年まで、学校で本ををそはるなぞといふことは夢にも考へず、一日中家の中を走りまはり、外であそびくらして来たのでした。それですから、学校へ入れられると、つながれた犬がくんくんなくのと同じやうに、たゞ泣いてばかりゐました。
 とても人のよい子で、少女のやうな、やさしい目もとをしてゐました。前のハメル先生は、苦心に苦心をかさねて、やつとのことでガスパールを手ならしました。先生は近所に用事が出来ると、ガスパールをお使ひに出してやりました。ガスパールは、そのたびに、自由になつたのをよろこんで、小川にはいつて水をはねとばしたり、日にやけた顔に日射病までうけて来ました。しかしクロック先生になつてからは、まるで、わけがち
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