、鴎のような話ね。――蟹を召しあがれば買ってくるつもりなの?」
「ええ、はあ買うたるのよの。午に煮ようかと思うんでがんさ。はあじきにお午じゃけに。――食べなんしたことががんすのかいの」
「食べるけど、あれは厄介《やっかい》なばかりでしかたがないや」
「おいしいものですけれどね」
「それはうもうがんすえの。それにこのごろは月がないころじゃけになおさらうまいんでがんすわいの。いいえ、ほんとでがんすて。月夜にはの、あれが自分の影に怖れてびくびくするけに痩せるんでがんすといの」
村の水天宮様の御威徳を説く時の顔つきである。
「ほほほ」
「おもしろいな、それは」
「そんなら食べなんすか」
「食べるよ」
「じゃ、よかった」と、またあちらへすたすたと、草履の踵《かかと》へ短い影法師を引いて行く。
鳩は少しも人に怖れぬ。
自分は外へ出てみたくなる。藤さんは一人で座敷で縫物をしている。いっしょに浜の方へでも出てみぬかと誘うと、
「そうですね」と、にっこりしたが、何だか躊躇《ちゅうちょ》の色が見える。二人で行ったとて誰が咎《とが》めるものかと思う。
「だってあんまりですから」と、ややあって言う。
前へ
次へ
全45ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング