るようですね」
「ふふふそれはあなた、家では何とかいうとすぐあなたの話が出るんですから、あの人だって、まだ見もしないうちからもう青木さん青木さんと言って、お出でになってもまるで兄妹《きょうだい》かなぞのように思っているんですもの」と章坊の枕を直してやる。
「さっきもね、初やから、お嬢さんは存外人に恥かしがらない方だとかなんとか言ってからか[#「からか」に傍点]われたんでしょう。そうするとね、だってあの方はもうよくお知り申してる方なんだものってそう言うんですよ。それでいてまだずいぶん子供のようなところがあるんですからね」
「私だって何だか、はじめて会った人のようには思えませんよ。――まだ永く逗留《とうりゅう》するんですか」
「あの娘《こ》ですか。そうですね……いったい今度こちらへまいったというのが……」
 しまいを欠《あくび》といっしょに言って、枕へ手を添えたと見ると、小母さんはその後を言わないで、それなりふいと眉毛のあたりまで埋まりこんでしまう。しばらく待ってみても容易にふたたび顔を出さない。蒲団の更紗へ有明行灯《ありあけあんどん》の灯《あかり》が朧《おぼろ》にさして赤い花の模様がどん
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