頭が動く。やがてそれがきちんと横向きに落ちつくと、自分は目口眉毛を心でつける。小母さんの臂《うで》がちょいちょい写る。簪《かんざし》で髪の中を掻《か》いているのである。
裏では初やが米を搗《つ》く。
自分は小母さんたちと床を列べて座敷へ寝る。
枕が大きくて柔かいから嬉しいと言うと、この夏にはうっかりしていたが、あんな枕では頭に悪いからと小母さんがいう。藤さんはこの枕を急いで拵えてから、あだに十日あまりを待ち暮したと話す。
藤さんは小母さんの蒲団の裾《すそ》を叩いて、それから自分のを叩く。肩のところへ坐って夜着の袖をも押えてくれる。自分は何だか胸苦しいような気がする。やがてあちらで藤さんが帯を解く気色《けはい》がする。章坊は早く小さな鼾《いびき》になる。自分は何とはなしに寝入ってしまうのが惜しい。
「ね、小母さん」とふたたび話しかける。
「え?」と、小母さんは閉じていた目を開ける。
「あの、いったい藤さんはどうした人なんです?」と聞くと、
「なぜ?」と言う。
聞いてみると、この家《うち》が江田島の官舎にいた時に、藤さんの家と隣り合せだったのだそうである。まだ章坊も貰《もら》わ
前へ
次へ
全45ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング