人の美しい女の人が出て来て、
「いゝ子だから、二階のあのお部屋の戸をあけて下さい。さうすればおまへのお母さまはもう泣きはしないから。」と言ひました。男の子は朝、目がさめると、お母さまに向つて、
「私《わたし》は昨夜《ゆうべ》、だれかゞお母さまに早くおかへり/\と言つていくども謡つたのを聞いた。」と言ひました。お母さまは、
「おまへは夢でも見たのでせう。」と言ひました。そして、あとで一人でさめ/″\と泣きました。
男の子は、たしかに目をあいてゐて聞いたのですから、もしほんとうにお母さまがかへつてしまつたらどうしようと思ひ/\、いちんち昨夜の歌のことばかり考へてくらしました。
三
その夕方、男の子は、ゆうべ二人の女の人が、あの二階の部屋をあければお母さまはもう泣きはしないと言つたのを思ひだしました。そして、さうすればお母さまは、もう家《うち》へもかへりはしないだらうと思ひました。そのときお母さまは、下の二人の男の子と赤ん坊とに水あびをさせに、泉へいつてゐました。
男の子は、いそいで二階へ上つて、小さな金の鍵《かぎ》で、そこの部屋の戸をあけました。さうするとその部屋の中に
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