よ/\。この子は私の紅宝石《ルービー》だものを、この子をおいてはかへれない。」といふ意味を謡《うた》でうたひながら、赤ん坊の寝顔を見つめてゐました。
すると、外からは、
「そんなら二人でおかへりなさい。紅宝石《ルービー》をだいて二人で。」と謡ひます。お母さまは、しばらく黙つてゐました。そのうちに、外の声は、また、
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「蜘蛛の梯子《はしご》が下りてゐる。
おまへが七年ゐないとて、
星の二人は泣いてゐる。」
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と、また謡ひ出しました。赤ん坊はふと目をさまして泣き出しました。お母さまは、そつとそのお背中をたゝいて、
「ねん/\よ、ねん/\よ。かへれ/\と言つたつて、玉の飾りの着物がない。」と、悲しさうに謡ひました。
赤ん坊はまたすや/\と眠りました。
それからしばらく、何の声もしませんでしたが、やがてまた外の月のあかりの中から、
「鍵をおさがしなさい。お前の着物のかくしてある、小さなお部屋の金の鍵を。」と小さな美しい声で謡ひました。
男の子は、その謡を聞いてゐるうちに、一人でに、うと/\と眠つてしまひました。さうするとその子の夢の中へ、二
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