もうこゝへかへつては入らつしやらないんだもの。」
「うゝん、さうぢやない。父さまはぢきかへると仰《おつしや》つた。」
「それから私《わたし》も、もうお家《うち》へかへらなければならないのよ。かへつたら、もう二度と出ては来られない。」
 お母さまはかう言つて、またさめ/″\と泣きました。男の子は、
「そんなら私《わたし》たち三人や、小さな赤ちやんをみんなおいていくの?」と聞きました。星の女は、さう言はれるとびつくりして、
「いや/\、私《わたし》はもうどんなことがあつてもかへりはしない。安心しておいで。あの赤ん坊やおまへたちをおいて、どうしてかへつていかれよう。」
 かう言ひ/\涙をふきました。男の子はそれで安心して、みんなと一しよにあそびました。
 するとその晩、男の子は、外の月のあかりの中で、だれかゞうつくしい小鳥のやうな声で、しきりと何か言つてゐるので目がさめました。
 聞いてゐると、その鳥のやうな声は、
「蜘蛛《くも》のはしごが下りてゐる、早くかへつてお出《い》でなさい。」といふことを、かなしいふしでうたつてゐます。
 そばで赤ん坊に添へ乳《ぢ》をしてゐたお母さまは、
「ねんねん
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