あが》りなさい。」と言ひながら、空からもつて来た果物をたくさんならべました。しかし男の子は、いくらすゝめても食べませんでした。お母さまは、
「それでは、これから私《わたし》と一しよに、おまへの大好きな赤ん坊と、あの二人の弟たちのところへいきませう。さあお立ちなさい。」と言ひました。男の子は、
「私《わたし》は一人でこゝにゐる。父さまは、かへるまでちやんとお家《うち》の番をしてお出《い》でと言つたから、私は一人で番をするの。」と言ひました。
「それでは私《わたし》はもういきますよ。父さまは明日かへつて入らつしやるはずだから、おかへりになつたらさう言つて下さい。母さまは、玉の飾りの着物を見つけましたから、もうお家《うち》へかへりましたと言つて下さい。母さまはこれまで長い間、毎日/\どんなにお家《うち》へかへりたかつたか知れません、もう今晩きりで二どとこゝへは来ないから、よく母さまのお顔を見ておおき。それから父さまが、なぜ二階のお部屋をあけたとお聞きになつたら、二人の女の人が、夢の中で、母さまが泣いてゐてかはいさうだからあけてお上げと言つたから、開けたのですとお言ひなさい。」
 お母さまはか
前へ 次へ
全25ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング