た。
[#ここから2字下げ]
「日が出ぬうちにかへらねば、
馬の蹄が糸を切る。
二人は夜どほし泣いてゐる。」
[#ここで字下げ終わり]
と、小鳥のやうな美しい声で謡つてゐます。お母さまは、二番目の子が目をさましたのを寝かせながら、
「ねん/\よ、ねん/\よ。この子が寝たらつれていく。あとでこの子に泣かれては、私《わたし》もお空で泣くのだから。」と、悲しさうに言ひました。
男の子はその歌を聞きながら、またすや/\と寝入つてしまひました。
朝起きて見ますと、窓にはもう日かげがまつ黄色にさしてゐました。そして、お母さまも弟もみんなゐなくなつてゐました。
男の子はいちんち一人で泣きつゞけて、涙で目がまつ赤にはれました。
やがて夜になつて、大空に星がかゞやきはじめたと思ふと、また入口の戸があいて、お母さまがかへつて来ました。男の子はお母さまの手に取りすがつて、
「母さまはどうしてみんなをつれてつてしまつたの。父さまがかへつたら、びつくりするよ。早くみんなをつれてかへつてね。ねえ、母さま。父さまがかはいさうだから。」と、たのみました。お母さまは、
「そんなことはあとにして、早くこれをお上《
前へ
次へ
全25ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング