し》たちをおいていきはしないと言つたのに、どうしてよそへいつたの。」と聞きました。お母さまは、
「赤ん坊は私《わたし》の二人のお姉さまのそばで寝てゐます。私はこれからすぐにまたお家《うち》へかへつて、遠くから見てゐて上げるから、みんなでおとなしくおねんねをするのよ。またあすの晩もおいしいものをもつて来て上げるから。」と言ひました。男の子は、
「それではその玉の着物をぬいでいつてね。父さまが、あのお部屋をあけてはいけないと言つたのに、私《わたし》があけて出したのだから、父さまにしかられる。父さまがかへつたら、私がねだつて、もらつて上げる。」と言ひました。お母さまは、
「そんなことはいゝから、早くこの果物をおあがり。」と言ひました。男の子はさう言はれたので安心して、お母さまとならんで、そのおいしい果物を食べました。
さうすると、だん/\に金の鍵のことも玉の飾《かざり》の着物のこともみんなわすれてしまひました。そしてお母さまが美しい着物を着て、美しい人になつてゐるのが、うれしくてたまりませんでした。
四
男の子は、もうお母さまはどこへも出ていかないものと思つて、安心して寝床
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