聞かないで、二階の部屋の戸をあけたので、あの美しい玉の飾りの着物までなくなつてしまつた。父さまがかへつたら、何と言はう、母さまや、赤ん坊がゐなくなつたのも、きつと私《わたし》が父さまの言つたことにそむいたばち[#「ばち」に傍点]にちがひない。」
かう思ふと、なほ/\かなしくなりました。
間もなく日がくれて、美しい月夜になりました。男の子は二人の子どもを寝床へ寝かせようとしてゐますと、ふと入口の戸があいて、お母さまが、ゆうべの玉の飾りの着物を着てかへつて来ました。下の二人の子どもは、大よろこびで、お母さまに飛びつきました。
「母さまがゐないからこはかつた。」
「私《わたし》も怖かつた。」と二人はかはる/″\言ひました。お母さまは、
「もう私《わたし》がついてゐるから、何にもこはいことはありません。それよりも、みんなさぞお腹《なか》がすいたでせう。さあこれをおあがりなさい。」と言つて、大空からもつて来た、おいしい果物を分けてやりました。二人の子供はうれしがつて、どん/\食べました。しかし一ばん上の男の子は、それを食べようともしないで、
「母さま、赤ん坊はどこへいつたの。母さまは私《わた
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