と、お母さまばかりでなく、小さな赤ん坊もゐなくなつてゐました。男の子は、
「これはきつと、悪いどろぼうが、お母さまと赤ん坊をさらつていつたのにちがひない。をとゝひの晩からの美しい歌は、きつと、どろぼうが母さまをだましてつれ出さうと思つて謡つたのだ。」と思ひました。見ると、お母さまに貸して上げた、あの玉の飾りのついた、きら/\した着物もありません。
下の二人のこどもは、母さまがゐない、母さまがゐない、と言つて泣き出しました。男の子は二人をなだめて、森の中をさがしてまはりましたが、どこまでいつて見ても、お母さまはゐませんでした。二人の子どもは、
「母さまがゐないからこはい。母さまがゐないからこはい。」と言つて、どんなにだましても聞かないで、いちんちおん/\泣いてこまらせました。男の子もしまひには、
「母さま、かへつてよ。母さま、かへつてよう。」と言ひ/\泣きました。二人の子どもは、お腹《なか》がすいてたまらないものですから、よけいにわあ/\泣きました。
男の子は、そのうちにふと、お父さまからあれほどきびしくとめられてゐたことを思ひ出して、
「あゝ、しまつたことをした。父さまの言ふことを
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