で、床の中で目をあいてゐました。さうすると、間もなくまた、外の月のあかりの中から、うつくしいこゑで、
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「蜘蛛《くも》の梯子《はしご》が下りてゐる。
おまへが七年ゐないとて、
二人の星は泣いてゐる。」
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と、小鳥のやうなうつくしいこゑでうたふのが聞えて来ました。
それから、しばらく何の声もしませんでしたが、こんどは、赤ん坊に添へ乳《ぢ》をしてゐたお母さまが、
「ねん/\よ、ねん/\よ。わたしのかはい紅宝石《ルービー》を、どうしておいていかれよう。」と、謡《うた》ひました。男の子は聞いてゐるうちに、ひとりでにうと/\と眠くなつて、お母さまの声がだん/\に遠くの方へいつてしまふやうな気がしました。そしてそれなり、お日さまが出るまで、ぐつすり寝てしまひました。
男の子は朝、目をさまして、ゆうべの歌のことを言はうと思つて、お母さまをさがしますと、お母さまはどこにもゐません。男の子は、
「それでは、すゐれんの泉へいつたのだらう。」と思つて、そちらへさがしにいきましたが、お母さまはやつぱりそこにもゐませんでした。それでまた家《うち》へかへつて見ます
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