おまへたちはとう/\母さまをなくしてしまつたぢやないか。しかしもう悔《くや》んでも仕方がない。お部屋をあけたことは、ゆるして上げるから、これからはけつして父さまのいふことにそむいてはいけないよ。母さまはそのうちには、おまへたちを見たくてかへつて来るかもわからない。これからみんなで赤ん坊のおもりをして、たのしくくらすことにしよう。」
かう言つて、涙をこぼしました。
「でも赤ん坊は母さまが、あの玉の飾りの着物を貸してくれと言つた晩に、一しよにつれていつてしまつたの。」と男の子は言ひました。お父さまは、
「赤ん坊もいつたのか。」と悲しさうに言ひました。
「しかし、あの子はお乳がないとこまるから、母さまのそばにゐた方が仕合《しあはせ》だ。それでは四人で一しよにくらしていかう。」
「でも母さまは、そのあくる晩と、またあくる晩に、二人ともつれてつてしまつたの。ゆうべは、私《わたし》をつれに来たけれど、私は父さまがかはいさうだから、いかないと言つたの。」
男の子がかう言ひますと、猟人《かりうど》は、よろこんでだき上げて、
「よくいかないでゐてくれた。それではこれから、どんなことがあつても、おまへは父さまのそばをはなれないかい?」と頬《ほほ》ずりをして言ひました。
「私《わたし》は、いつまでも父さまと一しよにゐるの。そして、父さまのいふことをよく聞くの。」と男の子は言ひました。二人は、そのまゝ森の家《うち》でくらしました。
猟人は毎日、その子をつれて猟に出て、夕方になるとまた一しよにかへつて来ました。しかし男の子は、毎日お母さまのことがわすれられませんでした。夜になつて、大空に星が一ぱい出ると、男の子は一人で門口へ出て、そのたくさんの星の中の、どれがじぶんのお母さまか、どれが妹か弟かと思ひながら、いつまでも空を見上げてゐました。
それから寝床へはいつて寝るときにも、いつもお母さまや妹や弟たちにあひたいとおもつて一人で泣きました。
そのうちに、お母さまたちがゐなくなつてから一年になりました。すると、或《ある》晩、夜中に、猟人は男の子を呼びおこして、
「こゝへお出《い》で。早くお出で。父さまは急に気分が悪くなつた。」と言ひました。男の子はびつくりして、そばへいつて見ますと、お父さまはまつ青《さを》な顔をして目をつぶつてゐました。男の子は、お父さまの手をさすつて、
「今日はあん
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