まり遠くまで歩いたからよ。あしたは猟を休んで家にゐませうね。」と言ひました。お父さまは、
「あゝ、くちびるがかわく。冷たい水を飲ましてくれ。」と言ひました。男の子は、おほいそぎですゐれんの泉へかけていきました。お父さまはその水を一と口飲むと、そのまゝすや/\と眠つてしまひました。男の子は夜どほし起きて、そばについてゐました。猟人は、とう/\夜明けまへに死んでしまひました。男の子は、大声を上げて泣きました。
 夜が明けると、男の子は泣き/\木を切り集めて、お父さまの死骸《しがい》を焼きました。男の子は、もう、たつた一人でこの森にゐるのはいやでした。でも、どこと言つていくところもありません。男の子は、森の草の上に顔を伏せて、せめてもう一どお母さまにあひたいと思ひながら、日がくれるまで泣きつゞけに泣いてゐました。
 やがて、大空には星がかゞやきはじめました。すると蜘蛛《くも》の王さまは、おほいそぎで下界にとゞく梯子《はしご》をつむぎ出しました。星の女はそれにつたはつて、泣いてゐる男の子のところへ下りて来ました。
 男の子は泣き/\お父さまのなくなつたことを話しました。お母さまも、さめ/″\と泣きました。そしてしまひに、
「もういゝから、泣かないでおくれ。私《わたし》は、おまへがかはいさうだからむかへに来たのです。さあこれを食べて、一しよに母さまのところへいらつしやい。」
 かう言つて、空からもつて来た果物を食べさせました。男の子はそれを食べると、一人でに悲しさをわすれて、お母さまと一しよに、空へ上りました。
 そのあくる日、二人の旅人が森をとほりかゝつて、猟人の家《うち》へはいりました。すると、家《うち》の中には人が一人もゐないものですから、二人は変に思つて、
「それでは、この家《うち》の人がかへるまで、二人でこゝに住んでゐよう。」と相談しました。しかし、家《うち》の人は、いつまでたつてもかへつては来ませんでした。二人の旅人は、とう/\死ぬまで、長い間そこでくらしました。
 二人はその間、いつも月のてる晩には、すゐれんの泉の中で、三人の女と、四人の子どもとが、楽しさうに水を浴びてゐる声を聞きました。そして明け方になると、かならず空の上から、
「おかへりなさい。お日さまがお出ましにならないうちにかへらないと、お馬が梯子《はしご》をふみ切つてしまひます。」
 かう言つて、みん
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