あが》りなさい。」と言ひながら、空からもつて来た果物をたくさんならべました。しかし男の子は、いくらすゝめても食べませんでした。お母さまは、
「それでは、これから私《わたし》と一しよに、おまへの大好きな赤ん坊と、あの二人の弟たちのところへいきませう。さあお立ちなさい。」と言ひました。男の子は、
「私《わたし》は一人でこゝにゐる。父さまは、かへるまでちやんとお家《うち》の番をしてお出《い》でと言つたから、私は一人で番をするの。」と言ひました。
「それでは私《わたし》はもういきますよ。父さまは明日かへつて入らつしやるはずだから、おかへりになつたらさう言つて下さい。母さまは、玉の飾りの着物を見つけましたから、もうお家《うち》へかへりましたと言つて下さい。母さまはこれまで長い間、毎日/\どんなにお家《うち》へかへりたかつたか知れません、もう今晩きりで二どとこゝへは来ないから、よく母さまのお顔を見ておおき。それから父さまが、なぜ二階のお部屋をあけたとお聞きになつたら、二人の女の人が、夢の中で、母さまが泣いてゐてかはいさうだからあけてお上げと言つたから、開けたのですとお言ひなさい。」
お母さまはかう言ひ/\さめ/″\と泣きました。
「母さまのお家《うち》はどこにあるの? こゝからよつぽどとほいの?」と、男の子は聞きました。
「それは、あとでお父さまにお聞きなさい。」
星の女は、かう言つて、間もなく空へかへつてしまひました。
五
あくる日になりますと、男の子はお父さまがもうかへるか、もうかへるかと思ひながら、いちんち戸口に立つて待つてゐました。さうすると、やつと夕方近くなつて、向うの森の中に、お父さまのかへつて来る姿が見えました。男の子は走つて迎へにいつて、
「父さま、私《わたし》はずゐぶん悪いことをしたの。女の人が二人、私が寝てゐるうちに来て、母さまがかはいさうだから、二階のお部屋をおあけと言つたから、金の鍵《かぎ》であけたの。さうすると玉の飾りの一ぱいついた、きれいな着物があつたから、母さまに見せたら、母さまが貸してくれと言つた。そしてその晩、外からたれかゞ謡《うた》をうたつて母さまをよぶと、母さまはその着物を着たまゝいつてしまつたの。」
かう言つて泣き/\話しました。お父さまはそれを聞くとびつくりして、
「ごらんよ、私《わたし》のいふことを聞かないから、
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