は夜になればまた来て下さるから。」と言つて、なだめました。しかし弟は、何と言つても泣き止《や》まないので、しまひには涙で目がまつ赤《か》にはれました。
そのうちに、日がくれて、空には星が一ぱい出ました。すると間もなく、入口の戸があいて、お母さまがかへつて来ました。
二ばん目の男の子は、走つて来て、お母さまの手に取りついて泣きながら、
「二人きりでこゝにゐるのはいや。母さまのお家《うち》へつれてつて。」と言ひました。
お母さまは二人に頬《ほほ》ずりをして、またゆうべのやうな、おいしい果物を分けて食べさせました。一ばん上の男の子は、
「母さまはとう/\二人ともお家《うち》へつれてつてしまつたのね。父さまがかへつたら、何と言へばいいの。」と心配さうに聞きました。お母さまは、
「それはまたあとでお話するから、早くお食べなさい。」と言ひました。
男の子は、ひもじくてたまらないので、急いで果物を食べました。そして、もう悲しいことも心配ごともわすれて、お母さまと楽しくお話をして、しまひに寝床へはいりました。
男の子は明け方ぢかくに、ふと目がさめました。さうすると、また外に歌の声がしてゐました。
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「日が出ぬうちにかへらねば、
馬の蹄が糸を切る。
二人は夜どほし泣いてゐる。」
[#ここで字下げ終わり]
と、小鳥のやうな美しい声で謡つてゐます。お母さまは、二番目の子が目をさましたのを寝かせながら、
「ねん/\よ、ねん/\よ。この子が寝たらつれていく。あとでこの子に泣かれては、私《わたし》もお空で泣くのだから。」と、悲しさうに言ひました。
男の子はその歌を聞きながら、またすや/\と寝入つてしまひました。
朝起きて見ますと、窓にはもう日かげがまつ黄色にさしてゐました。そして、お母さまも弟もみんなゐなくなつてゐました。
男の子はいちんち一人で泣きつゞけて、涙で目がまつ赤にはれました。
やがて夜になつて、大空に星がかゞやきはじめたと思ふと、また入口の戸があいて、お母さまがかへつて来ました。男の子はお母さまの手に取りすがつて、
「母さまはどうしてみんなをつれてつてしまつたの。父さまがかへつたら、びつくりするよ。早くみんなをつれてかへつてね。ねえ、母さま。父さまがかはいさうだから。」と、たのみました。お母さまは、
「そんなことはあとにして、早くこれをお上《
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