犬でせう。」と、目をほそめてにこ/\しました。
「パン屋さん、この犬は何といふ名まへなの。」と、人のいゝ、半ばかの女中は、そのきたならしい小犬をだいじにだき上げながら聞きました。
「名前はピエロです。」
おばあさんはそのピエロをもらつて、古い、シヤボンの空きばこの中へ入れました。まづ第一ばんに、水をくれてみますと、ピチヤ/\となめて飲みました。それから、小さなパンのきれを一つやりますと、すぐにもぐ/\食べてしまひました。
「いまにこの家《うち》へなじんだら、はなし飼ひにしてやればいゝよ。さうすれば、食べものは方々でさがして食べるだらうからね。」と、おばあさんは言ひました。
間もなくピエロは綱をとかれました。
ところが、この犬は、どんな見しらない人が来ても、ちつともほえつかないばかりか、かへつて尾をふつて、からだをすりつけにいくのです。ですから、だれだつて、畠へでもどこへでもはいれるわけでした。ほえるのは、たゞローズのところへ来て食べものをねだるときだけで、そのときには気ちがひのやうに、わん/\ほえまくりました。
おばあさんは、でも、ピエロをかはいがつて、とき/″\、食べあまりの
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